短中編

□誰か教えてくれ
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爽やかサッカーバカ✕無表情特殊体質美人
ーーー

突然だが、俺には人とは違う物が見えるらしい。
らしい、と言うのは曖昧だが、俺は俺でしかないから、他の人間が普段どう見えているのか、どう過ごしているのか、比べようがない。
こう言う風にしか言えないのがしゃくだが、この言葉以外形容し難いのも確かだ。

「長谷川、おはよう!」

背後から声でをかけられ、長谷川こと、この物語の主人公、長谷川美織(はせがわみおり)は振り返る。
すると初等部から腐れ縁であり、一番の友人、野原真司(のはらしんじ)が爽やかな笑顔で美織の肩をポンっと叩いた。

「野原、おはよう」

美織は無表情のまま、機械のように淡々と挨拶をする。
そして、真司の胸元をチラっと見て、表情こそ変えないが、彼に聞こえないよう小さな溜息をついた。

美織にだけ見えているもの、それはちょうど心臓辺りに位置するハートの形をした赤い物体だ。
何故か全ての人間がそれを持っている訳ではなく、不特定多数とは語弊があるかもしれないが、美織にとって接触のある者、あるいは親しい人間、だが身内や親族、お世話になっている教師などには見られない事から、何かカラクリがあるのだと言う事はわかった。
そしてそれは相手の感情の変化により、ピコピコと音と共に大きさも変わる。
現に、友人の真司のハートは絶好調に音が鳴り、心臓のようにドクンドクンと大きく震えているのである。

「ぶはっ!!
長谷川、相変わらず棒読みで愛想ないなっ」

真司は面白いとばかりに口元を手で覆い、笑いを堪えていた。
どこに笑う要素があったのか疑問だが、美織にとって真司は数少ない心が許せる友人。
その彼が自分の無愛想、人見知り、愛嬌の欠片もないのにいつもこうして声をかけては共に行動してくれる。
それが美織にとって、どれ程嬉しい事かなど、きっと知る由もないのだろうが、表情こそ出ないが彼の心はホワホワと温かい気持ちに包まれた。

「っ…!
可愛っ…!!!」

真司は急に顔を真っ赤にして、目を大きく見開く。

「カワイ?」

突然の言葉に、美織はハテナマークを浮かべ、小首を傾げる。
その姿がどれたけ可愛らしい事か。
まるで猫が首を傾げてるような姿に、真司の顔や耳は真っ赤に染まる。
普段はキツめの目元が、不思議そうな時だけくりっとしたまん丸の目となり、なかなか気づけないが美織の顔は物凄く整っているのだ。
何故気づけないのかと言うと、黒縁メガネをし、前髪で殆ど目元が隠れているが、よく見れば美しい程の中性的な顔をしている。
本人には全く自覚がないものの、親しい人間からしたら、これ程の美形を何故この学園の生徒はほっておくのか。
いや、むしろ一生気づくな、美織の良さを知るのは自分だけで充分だとさえ思っている事は内緒だ。
そして、真司だけに与えられた特権。
それは無表情ながらも花が綻ぶようにふわりと微笑む美織は、息を飲む程に美しい。
ずっと隣にいたからわかるのだが、美織の全てに品があり、儚く庇護欲をかきたてられ、自分だけのものにしたくなる。

「………」

まただ。
またハートが爆発しそうなくらい、バクバク動いてるよ。
何だよ、これ?
野原は他の奴より、大きいし、色も濃い。

「っ、長谷川っ、俺っ…」

興奮したように美織の肩を掴み、真司はゴクリと唾を飲み込んで鼻息荒く顔を近づける。

「?」

美織は更にハテナマークを浮かべ、頭一つ分程高い、真司を上目遣いで見上げた。
その可愛らしさに、真司の胸と下半身がズキューンと音を立てたのは言うまでもない。
突然、うずくまる真司を心配そうに見つめる美織。
その顔が更に誘っているかのように悩ましげで、真司は呻き声を上げて、公衆の面前で射精したのだった。

「っ、最高かよっ!!!」

急な大声に、美織や登校途中の生徒は何事かと驚くが、真司の姿を見て、周囲は即座に理解する。
あぁ、鋼のプリンスの色気にノックアウトされた残念なサッカーバカか、と。


end
ーーー

自分に好意を寄せてる相手の心が見える主人公だが、それが何なのか気づいてない無頓着さ故に、友人くんの毎晩のオカズになっていると言う、少し下品な話。
ずっと書きたかったネタ、もしかしたら続くかも。
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2019.7.6 管理人ゆあ



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