短中編

□やっと、気づいてくれた。
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しばらく何かを殴る音がしていたが、突然静まりかえる。
透は恐る恐るデスクの下から体を出し、膝をついたまま、扉の方へ視線を送った。
その瞬間、ドアノブが回り、扉が開く。
そして、勢い良く、男が姿を現した。

「三好、大丈夫か!?」

蓮二が慌てて近づき、震える体を抱き締める。
見知った顔と、彼の匂いと体温に透の体から力が抜けた。
覚えてくれた嬉しさと、あの時に話した言葉を信じてくれた事に安堵する。

「今日の様子がおかしいから、残っていて良かった…
お前に何かあると思うと俺は…」

そう苦しそうに話す蓮二に、心配してくれた事に感激し、目の前の体にしがみつく。

「蓮二…ありがとうっ…」

喧嘩ばかりするし、いつも上から目線で凄く腹も立つけど、いざと言う時に必ず助けてくれる。
そんな彼に少なからずも好意を抱いていた透は、今回の事で完全に蓮二を恋愛感情として、気になる存在である事を意識したのだ。

「家まで送る。
ストーカーは警備員に引き渡したから、安心していい」

ぶっきらぼうだけど、いつも何手先も読んでおり、頼りになる男なんだと感心する。
今日も警備員も呼んで、対処してくれた。
透のピンチの時には、いつも駆け付けてくれる、そんな男を好きにならない筈がない。


その後、透にストーカーしていた男は逮捕された。
プロジェクトを何度か組んだ相手で、前から好意を持っていたそうだが、隣には必ず蓮二の存在があり、焦りからストーカー行動に出てしまったそうだ。
ある程度の自供はし、透へ送りつけたメールの数々と、家まで付け狙ったりした事は認めたが、下着の色や、会社での事などについては否認していると言う。
だが、ストーカーの言う言葉など誰も信じておらず、それも全部嘘だろうと言う事で片付けられたのだった。


晴れて、二人は付き合う事になり、透は初めて蓮二の部屋へ入る事になった。
あれ以来、ストーカーに悩まされる事もなく、順風満帆に生活も交際もスタートしている。
少しだけ不満があるとすれば、彼氏である蓮二が完璧過ぎて、自分が何か情けなくなるくらい、至れり尽くせりな状態だと言う事だった。
ノロケだと言われればそうなんだが同じ男として、これで良いのか疑問が残る。
だが、同僚や友達からは、あんなハイスペック彼氏なかなかいないよ、あんたみたいな愛想も可愛くもない人間と付き合ってくれる貴重な存在だと、何故か力説される始末。

「解せぬ…」

蓮二の作ってくれた料理を食べながら、呟く。

「何がだ?」

不思議そうにする姿もまたイケメンで、何だこの男は完璧なのかコノヤローと心の中で叫ぶ透。

「本当に、蓮二は優しくて、格好良くて、仕事も料理も家事も完璧で、欠点なんてない素敵な彼氏だなって思っただけだよ」

透は目を半開きにし、棒読みで伝える。
それを聞いて、蓮二はフッと鼻で笑った。

「まだ一つ抜けているだろう。
三好を愛する、素敵な彼氏だ」

そんな臭い台詞を真顔で言う辺り、やはり解せないなぁと思う透だったのだ。


二人でお酒を飲んで、そのままソファーに寝てしまったらしく、蓮二がブランケットをかけてくれた。
その彼はと言うと、お風呂に入っている為、透はつまらんと思いつつも部屋を探索する。
独り暮らしにしては広く、リビングの他に寝室、そして倉庫だと言っていた部屋があり、寝室から見る事にする。
シンプルでいて、紺とグレーを基調とした大人っぽい部屋だ。
特に何も発見出来ず、そのまま倉庫だと言っていた部屋に入る。
すると真っ暗で電気のスイッチを押すも明かりが点かない。
不思議に思いつつも更に中へ入って行くと、外の車のヘッドライトの明かりが部屋にさした。
すると壁一面に、透の写真が貼ってあり、二人で写ったものから、盗撮まで大きく引き伸ばされていたのだ。

「え…」

透は何が起きたのかわからず、混乱したまま自分の写る写真たちを見ていた。

「やっと、気づいてくれたのか」

背後から急に声がして、振り返ると、風呂から上がったばかりの蓮二が立っていた。
そして、獲物を狙う肉食動物のような眼光をし、透の元へと近づいて来る。

「お前に言っただろう?
三好を愛する素敵な彼氏だと、お前の下着から、会社で誰と仲良くして、どんな会話して、何を食べたか、全部俺は知っている」


ああ…、ストーカーはあいつだけじゃなく、蓮二、あんたもだったんだね。


「今日からお前は、ずっと俺と一緒だ」

やっと掴まえられた、そう言って微笑む蓮二を見て、透も同じように微笑んだのだった。

やっと、気づいてくれた


end
ーーー
結局、どちらでもとれるように、掴まえたかった同僚と、掴まりたかった主人公的な感じで終わらしておこうかなと。
ーーー


2018.8.3 管理人ゆあ


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