短中編
□なんだ、そっか。
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※病んでる、報われない。
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数々の試練を乗り越えて、やっと結婚して、念願の寿退社も実行した。
なのに、長太郎は毎晩遅くまで仕事だと言って帰って来ないから心配になって会社に電話したら、定時で帰りました、と部下であろう男の人から言われる始末…
結婚早々、浮気かコノヤローと思って問い詰めようと電話しても無視、しまいには着信拒否。
「こんなのってあり得る?」
圭太は友人の大悟に愚痴をこぼした。
「う〜ん、俺も結婚してるけどさ、圭太少し花輪くんを責めすぎてるんじゃない?
そもそもまだ新婚旅行も行けないくらい、多忙なんたから、その部下の人も勘違いしたんじゃないかな」
大悟の言葉に、圭太は首を横に振って全否定。
「車には長い髪の毛落ちてるし、女物の香水の匂いがぷんぷんだし、あの秘書の女と不倫してるんだよ!」
もう、こうなったら誰の話も聞かないとわかってる大悟は、ひたすら愚痴を聞いてあげる事にした。
圭太はついに会社に乗り込む決心をし、旦那である長太郎がいる階まで行くも警備員に止められてしまう。
「長太郎に会わせてよ!
浮気してるの、わかってるんだから!」
どんなに叫ぼうと旦那のオフィスにはたどり着けないし、長太郎もこの騒ぎを知ってるだろうに出てくる気配もない。
圭太は悲しい気持ちと、裏切られた気持ちで胸が張り裂けそうになった。
幸せな結婚生活を送りたいだけなのに、何でみんな邪魔をするのか。
どうして長太郎は会ってくれないのか。
何故自分が会社から出入禁止だと言われるのか、どれも納得など出来る筈もなかったのだ。
ようやく長太郎が仕事から久々に家に帰って来たと思うと、見ず知らずの女を連れていた。
さすがにこれには圭太の堪忍袋の緒が切れて、今まで耐えていた事を全部伝えたのだ。
すると一緒にいた女は怯えながら帰って行き、長太郎も顔面蒼白で狼狽えていた。
「新婚なのに、この扱いはあんまりだよね!
どう説明してくれるのさ!」
圭太は気違いの様に、叫びヒステリックに詰め寄った。
長太郎は尚も何も言わず、口をぱくぱくと金魚のように開いては閉じを繰り返す。
「あの女は何だよ!
何で不倫なんてするんだよ!
やっぱり女が良かったんだっ」
最後に圭太はその場にうずくまり、床を何度も拳で叩いて泣きじゃくった。
長太郎は異様なものを見るように、だがそのままにしておけないので、嫌々彼の肩に触れる。
やっと圭太は自分の気持ちを理解してくれたのかと、歓喜した瞬間だった。
「すみません…、あなたは誰ですか?」
圭太はすぐさま顔を上げて、こいつは何を言っているんだって表情で長太郎を見上げた。
すると彼は本当に訳がわからないと言う風に、怯えながらも、それでも警戒は解かずにに見つめている。
「もしかして…無言電話も、会社に乗り込んで来たのも、家に勝手に入ったのも、車の中を物色したのも、…全部あなたがしたんですか?」
その言葉を聞き、圭太は納得した。
電話に出ないのも、着信拒否も、会社を出入禁止になったのも、家に帰ってこないのも、全部そう言う事だったのか、と。
「あぁ…、俺達結婚してなかったし、そもそも長太郎と付き合ってもなかった…」
二人の間に不気味なまでの空気が流れ、その瞬間に圭太は立ち上がり、長太郎に大きな一礼をしたのだ。
全部、俺の願望が生み出した産物だったんだね。
遠くから、パトカーのサイレンの音が鳴り響く。
きっと一緒にいた女が、本当の奥さんなんだろうな、と他人事のように考えるのだった。
なんだ、そっか。
でも楽しかったな、今度はどの男にしようかな?
end
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ちょっと主人公が病んでる設定です。
友人は彼の妄想癖に気づいてますが、本当に長太郎と付き合ってると思ってます。
素敵だな、良いなと思った男に依存して、勝手に恋愛すると言う迷惑極まりないですが、主人公はいつしかそれが真実のようになっちゃうって話。
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2018.7.30 管理人ゆあ