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□思い出の家
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日曜日。
朝から準備をしてリンと駅に向かう。


旅行気分でのんびり行きたかったので、新幹線などは使わず瑠雨の地元の駅に向かった。



駅が近くにつれ、瑠雨は色々な思い出話をリンにしていた。



生まれはどこか

何歳の時に引っ越したか

当時遊んでいた遊び

学生だったときのこと




『こんなの聞いてもつまらないよね?ごめん…』

と途中で気づき謝ると

「瑠雨の色々なことが知れて嬉しいですよ」


とリンは言ってくれた。









実際地元の駅につくと、緊張からか瑠雨は無言になる。




駅から家がある場所までは歩いて15分弱。





徐々に顔も強張りはじめる瑠雨。


リンは手を握り
「大丈夫ですよ」
と声をかけると瑠雨は笑顔を返した。





道を何回か曲がり、歩き続ける。

そして、小さな森の角を曲がった時






その先を見て、瑠雨は小さく笑いはじめた。




『あははは…』

「どうか…しましたか?」


急に笑い始めた瑠雨を心配するリン。

すると急にしゃがみこみ、下を向いた。




リンは瑠雨が自分から話してくれるのを待った。


少しして瑠雨は口を開く。




『ない』

『…え?」

『家。




家自体がなかった…。


私の家があった場所、そこなの』


そう言葉だけは元気に言い、空き地になっているところを指さす。



『私の家はこのあたりで1番に引っ越してきたから、これだけ家があってこれから建つことはない…


目の前のお家も、私の世界とは名字が違うし…



やっぱり…ちょっとずつでも私の世界とは違うんだね…』





と相変わらず下を向いたままあっけらかんと言う瑠雨。


しかしリンは瑠雨が泣いているのをわかっていた。




頭をゆっくりと撫でる。
そして
「泣いていいんですよ」


そう呟くと瑠雨は肩を震わせ、その後声をあげて泣き始める。




リンは優しく瑠雨を抱きしめ、泣き止むまでずっと背中をさすり続けた。




少しして落ち着くと
『はーーーー!すっきりした!』
とリンに顔を見せず立ち上がる。



そして
『ありがとうね!
今日コウがついて来てくれてなかったら、ここにも来れてなかったし…




東京帰ってないかも!』
と言い振り返る。


『来なきゃ良かったとかも思ってないよ…来れて良かった!


…コウと一緒で良かった…



…ありがとう』


リンの両手を握り、真剣な表情でお礼を言う。




「私も一緒に来られて良かったです。
一緒に帰りましょうか?私たちの家へ…」



瑠雨が頷いたのを確認すると、手を繋ぎ直し、ふたりとも何も喋らないまま駅まで戻った。




会話がなくても、そこは気持ちのよい空間だった。





緊張から解放されたからか、帰りの電車では瑠雨はすぐに寝てしまった。



それでもリンは瑠雨の手を離さず、ずっと握っていた。






帰ってナルに報告をするふたり。



『行かせてくださって、ありがとうございました』

そう頭をさげると、ナルは


「安心しろ。
お前の居場所はここだ」


と言ってくれた。


リンと瑠雨はその言葉に微笑み合うのだった。


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