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□人形の家
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暗い部屋の中にいる。
自分の腕を…強く掴んで血が出ても痛みを感じない。
そのくらい苦しい。
苦しく泣いていてもあの子は戻ってこない。
大切な我が子
愛する我が子
私には富子しかいないのに…
富子のいない生活なんて考えられない。
苦しい
そうだ…
死ねばいいんだ。
私が富子のところに行けばいいんだ。
そう思い井戸へ。
もう私にはなにもない。
富子富子富子富子富子富子……
「はやく回線を切って」
聞こえるナルの声。
…瑠雨……さい。
遠くで声がする。
「起きなさい!」
遠くで聞こえていた声が急にはっきり聞こえたと共に、頬に痛みがはしる。
リンが頬を叩いたのだ。
『あ…リン……』
井戸の中に降りてきて、心配そうに瑠雨の顔を除いているリン。
瑠雨の口から
富子
という名前が出た。
リンは瑠雨が真砂子がさっき言っていた女に同調しているのではないかと考え、強制的に現実世界に連れ戻してくれた。
同調しすぎると、同じ場所を怪我してしまったり、実際に命を落とすこともあり得るそうだ。
『まさか…同調なんてしてないよー!
私にそんな力なんて…』
と言っている途中で思い出す。
夢の中の私…富子の母親は自分で自分を追い詰め、自身の腕を強く握っていた。
爪が食い込むほど、血が出るほど強く。
恐る恐るパーカーを脱ぐ。
瑠雨の腕にはくっきり爪の跡があり、そこから血が出ていた。
「やっぱり…同調です。
瑠雨、あなたには特別な能力があります。
コントロールをできるようにならないと…」
ショックを隠せない瑠雨
『なら…ないと?どうなるの…?』
落ち着かせるように顔を覗き込み
「この事件が終わったら、ちゃんとコントロール法を学びましょう。手伝いますから」
そう言って、リンは心配そうにしている瑠雨の手を握った。
麻衣も目を覚ました。
麻衣も夢を見たようだった。
麻衣は同調ではなく、第三者としてその場を見ていた。
富子が人さらいに連れて行かれてしまい、女が井戸で命をたったこと。
麻衣と瑠雨の話には共通することばかりだった。
「真偽のほどはわからりませんが、あんがい的を射ているかもしれませんね」
とリンは言っていた。
麻衣は疲れたしまったのか、ソファで横になり、寝始める。
瑠雨は綾子に腕の手当をしてもらい、いくらか気持ちが落ち着いてから不安を取り除くように頭を動かし続けた。
余計なことを考えないように。
あの女のこと、富子のこと。
きっとナルは富子というワードだけで、今情報を集めるために動いているだろう。
後はナルがどうにかしてくれるだろうが、麻衣と瑠雨の夢のことも資料にまとめる。
事務所で勉強はしているが、私には除霊に関しての知識はほぼ0といっても過言ではない。
なので私の仕事はここまでなのである。
まとめ終わると、欠伸が出る。
さっきの“同調”というのは体力を使うのだろうか。
すごく眠い。
(少し寝ても平気かな…
もう夢を見たくないな…
せっかく最近うなされなくなったのに…)
少しの不安もあり、きっと大事な仕事をしているであろうリンの隣に移動する。
そして
『リン…少しだけ…』
と言い、リンの肩を借りて寝息をたてはじめた。
そして
ベースに残された綾子は、リンとふたりで気まずい時間を過ごしたのだった。