名簿
□新入社員くん
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「戻りました。」
どうやらここが彼らの拠点らしい。高田に続いて入谷は小さくお辞儀をして入った。ドアには、とても簡易的にカウカウファイナンスと掲げられている。意外なことにも爽やかなオフィスだった。入谷はすぐに、奥の社長席にある丑嶋の姿を見つけた。
「ちょうどよかった。入谷来い。」
丑嶋に呼ばれ社長席まで歩く。席の前は応接間になっておりそこには柄崎が座っていた。足元には肥満体型の男が座りこんでいる。
「入谷、お前こいつが何に見える?」
こいつとは肥満体型の男を指すのだろう。
入谷は考えた。どんな回答を彼が求めているのかを。入谷は肥満体型の男性を見つめる。男は丑嶋の方を向いてるため顔は見えない。ここで入谷はハッと1つ気が付いた。
「お客様です。」
入谷が言うが速いか肥満体型の男は振り返り目を見開いた。そして安堵の表情を浮かべ、
「ももちゃぁん!」
立ち上がり入谷の肩を抱いた。湿った手がシャツ越しに触れられる。ももとは、入谷が風俗店にて与えられた源氏名だった。いわゆるこの肥満体型の男は入谷のお客だった。
「なに。知り合い?なら入谷こいつに金返すように言え。」
「金……?」
「まだ言ってなかったが俺らは金融屋だ。そいつは債務者。今日は返済日。そいつがお前の入社試験だ。」
「ダメだよももちゃん!!ここここここの人たち、悪い人なんだよ!!金融屋だなんていってるけど闇金なんだよ!こんな奴らの言うこと聞いちゃダメなの!」
入谷は両肩を掴まれ激しく揺さぶられ何が何だかわからなくなった。気づけば自分でも考えが追いつく前に、債務者の頬に拳を思い切り叩きつけた。
「はぅんっ!」
債務者の情けない悲鳴と乾いた音が部屋に響いた。債務者は頬を抑えて床に転がっている。
「所持金は。」
「は…っは……さ、さ、ささ3000円…っ」
入谷はしゃがみこみ債務者の胸ぐらをつかみあげた。
「社長。」
「なに。」
「こちらのお客様はいくらお借りしてるんですか。」
「うちは初回5万。10日で5割のトゴ。そいつは今7万5000円の負債を背負ってる。ジャンプもできるが、そいつの所持金は利子にすら足りねえ。どうする、入谷。」
掴まれている胸ぐらから震えが伝わる。
「三木さん」
三木とは債務者の名前である。入谷は胸ぐらを掴みあげていた手をそっと外し、三木の肩に置いた。
「ももちゃん……」
三木が涙を浮かべ入谷の手を握る。
入谷はその手を優しく握り返し穏やかに話した。
「三木さん。奥さんいらっしゃるよね。
お金。もらいに行こっか。」
入谷は彼がよくベッドで嫁の愚痴を零していたのを覚えていた。その言葉の意味がわかった三木は顔の色を変える。
「ダメだよ……知ってるでしょ……娘もいるんだ……こんなのバレたら…。」
震えが大きくなる。
「ももちゃんのために借りたお金だよ…?ももちゃんそのお金で生きてるんだよ?」
債務者はもっともらしいことを言う。
気にせず入谷は続けた。
「三木さん。ごめんね。
私、あそこで養ってもらってたからお給料貰ったことないんだ。」