名簿
□同級生くん
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「あっづ!」
小さく飛んだ油が柄崎の手の甲に落とされ、柄崎は体を大きく跳ねさせた。丑嶋はそんな柄崎を鬱陶しそうに一瞥してから入谷に話しかけた。
「コンビニでも売ってるだろ。」
入谷は目の前で焼かれてるお好み焼きを見つめている。
「聞いたことも、字を見た事もあります。でも、こんなおいしそうだとは思ってもみませんでした。」
「嬉しいね。実家でそんなことを言って貰えると。」
戌亥と入谷がそんな会話をしてるのを尻目に、丑嶋はお好み焼きを切り分け、器用に入谷の皿にのせた。生地からはプリっとした海老が顔を覗かせている。
「い、いただきます……。」
4人は手を止め入谷の様子を伺った。
箸で器用に小さくされたお好み焼きは湯気を上げて入谷の口に運ばれる。
「あふっ」
あまりの熱さに入谷がそう言うと、口から白い湯気が漏れた。熱さに慣れると口の中で転がし、柔らかくなった甘いキャベツを噛み締めた。入谷の喉が動く。口を空にさせた入谷は口を開いた。
「戌亥さんのご実家は素晴らしいです!」
入谷が目を輝かせてそう言うと、4人は微かに笑みをこぼした。
「君の言葉が嫌味がなくて嬉しいね。」
「ひなちゃん、こっちは豚肉だよ。」
「気にせず好きなものを食えよ!」
ひなにあれやこれやと勧める3人を尻目に丑嶋は、ツンと香る金色の炭酸を勧める。
「飲んでみろ。」
「なんすか社長これ。」
「梅酒。」
「女って梅酒好きっすもんねぇ!」
「そのさっきからの女偏見なんなんですか。」
入谷はグラスをじっと見つめる。
「お酒は人を滅ぼしますよ。」
「だが、飲めなきゃいけねぇ仕事もある。」
丑嶋にそう言われ入谷は意を決した。グラスを手に取り傾けて、唇で器用に梅酒を啜った。
「甘い。」
「ほら言っただろ!女は梅酒が好きなんだ!」
柄崎が高田に凄む。高田は呆れたようで、何も言わなかった。
「これは皆好きになるのが分かります。」
入谷は徐々に徐々に、梅酒を喉に流し入れた。
丑嶋が、仕切り直しだ、と口にすると皆自分のグラスを手に取りぶつけあった。入谷もおずおずと自分のグラスを差し出し丑嶋達と乾杯を交わした。