名簿
□同級生くん
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運転席は柄崎だった。
柄崎は振り返り、服を着替えた入谷を見て、良いじゃねぇか、と笑った。助手席に座る丑嶋は、何も言わないが悪くはなさそうだった。
車から降ろされたのは、少し古い店だった。中に入ると熱気がたちこめていて仄かに入谷の顔を湿らせた。座席一つ一つに黒い鉄板が付いており、細かい傷がたくさん入った年季がある。
「こんばんは。おばさん。」
店内の奥の女性に丑嶋が頭を下げる。続いて柄崎、高田も頭を下げた。
「社長、戌亥はまだですか。」
柄崎がそう言うと、丑嶋は振り返り入口を見た。間髪入れず、入口はカラカラと音を鳴らし、そこからスーツの男が現れた。
「遅れてごめん、丑嶋くん。」
「今来たばっか。」
「母ちゃん、奥の席使うね。」
男は先程の女性に声をかけて、丑嶋達を奥の座席に案内した。
入谷の左右には柄崎と高田が、向かいには丑嶋とスーツの男が並んで座った。
「初めまして。戌亥です。丑嶋くんの幼なじみで仕事仲間だよ。ここ、俺の実家のお好み焼き屋。いつでも来てよ。」
見た目と反して柔らかい話し方をする人だった。戌亥はメニューを手に取り、入谷に勧めた。
「ひなちゃんだっけ?」
「はい。」
「好きな物食べなよ。君のことは、丑嶋くんから聞いたから。」
戌亥が入谷に笑いかけた。入谷の目線はメニューに注がれている。
「あの、戌亥さん。」
高田が恐る恐る声をかけた。
「この子、多分お好み焼き食ったことないと思います。」
「えっ、本当?それ」
入谷はメニューから顔を上げ、気まずそうに頷いた。
「お前、今まで飯はどうしてたんだよ。」
柄崎が机に肘をつき、入谷の顔をのぞき込んだ。
「店が出してくれるものと……その前も与えられた物だけを…。」
「なるほどなぁ。じゃあ、海老だ。海老が乗ってるやつ。女は海老が好きだろ。食ったことあるか、海老。」
「柄崎、少し静かにしろよ。」
丑嶋は入谷からメニューを取り上げると、一通り選び始めた。
慣れた様子で店員を呼び、入谷の聞きなれない言葉をペラペラと話した。
「お前酒飲めるの。」
丑嶋が入谷に聞いた。
「まずいくつなんだお前。」
今度は柄崎が。
「昨日……。昨日20歳になりました。」
「まじで!」
「それはめでたいね!」
柄崎や高田が声を荒らげる中、丑嶋は無表情で注文を済ませた。
「名前すらわかんなかったのに、誕生日は覚えてるんだね。」
「年齢が増えれば増えるほどできる仕事が増えたので。」
「なるほどね。」
「じゃあ、今日は君の歓迎会と誕生日パーティの同時開催だ。」
戌亥がめでたく手を叩く。それに釣られて、高田と柄崎も手を叩いた。
入谷は恥ずかしそうに微笑むと出された水に口をつけた。