名簿
□女ドクターくん
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診察が終わりマンションを出たところ、2人の姿は見当たらなかった。
焦燥感が入谷を襲う。
背中が泡立つような感覚に苛まれ気持ち悪い汗が滲んだ。
先生の元に戻ろうか、震える足で踵を返そうとしたところ単発的なクラクションに阻まれた。
振り返ると黒いアルファードが目に入った。迷わず2人がいると思った入谷は急いで車に近づいていく。入谷が車の横についたと同時に運転席の窓が下げられた。
「こんにちは。ひなちゃんだよね。」
窓には見覚えのない若い男の顔があった。入谷入谷は思わず後退りをする。どこの知り合いだったか記憶をめぐらせた。
「怖がらないで。社長に迎えに行くように任されたんだ。とりあえず乗りなよ。」
その男は運転席から降りると助手席の扉を開け、入谷を中へと促した。車に乗るのは2年ぶりだ。彼の髪の黒と金の境目を見つめながら、入谷はそんなことを考えた。
車を発射させるとその男はルームミラー越しに入谷を見た。
「俺、高田。前は風俗嬢だっけ?」
「はい。18から2年間。」
高田は20歳かぁ、と呟き、どこか思い出にふけるているようだった。
「その前は何してたの?」
「前?前は、えーっと……」
風俗の前は、仕事の移り変わりが激しく、仕事についても事実自分が何をなんの為にさせられてるのは入谷自身分かってなかった。
「正直に言いなよ。」
高田が笑った。
「色んなことをしたけどなんの為かもわからなくて……、」
「なるほどね。
じゃあさ…、人は殺した?」
高田はこちらを一瞥して鋭く口角を上げ、凛々しく笑う。
「はい。」
「えっ、あっ、え、本当?びっくりした危なかった。」
車体が右へ左へと大きく揺れた。
高田は目を見開き入谷の顔をのぞき込んだ。
「…本当です。殺しました。仕事でした。」
「本当になんでも話すんだね。
実は社長に君のこと探れって言われて来たんだけど。」
入谷は爽やかに笑う高田の横顔を見た。確かに柄崎や丑嶋だとこんな風に話せなかっただろう。柔和な対応。紳士的な行動。
入谷は高田の仕事内容を何となく理解した。