【BL小説】みかつる短編集

□酒比べ、閨比べ(みかつる)
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鶴丸が目を伏せることを覚えたのは、恋という感情を覚えたからであった。
どうにも気恥ずかしく、三日月を真正面から見つめ難い。
「鶴や。どうかしたか」
優美に微笑みかけてくる三日月にそっと目を伏せた鶴丸は、小さく笑って何でもないと答えた。
「そうか。時に鶴よ」
今宵は中秋の名月、酒比べでもせぬか。
三日月の誘いに、鶴丸はあくまで軽く「おっ、いいねぇ」と承諾した。
「飲み比べと言うことは、ふたりきりで飲むのかい?」
ジリ、と胸が熱を孕む。
悟られまいと鶴丸は笑顔を取り繕った。
「左様。負けた方が勝った方の言うことを聞くのだ」
「あぁ、いいぜ。覚悟しとけよ」
あくまで、距離を保ちながら。
鶴丸は、三日月の誘いに乗った。

今宵は月が綺麗であるな、と。
三日月が縁側に鶴丸を呼んだ。
「寒くはないかい?」
さすがに秋の夜は、酒が入っていても冷える。
「うむ。ならば、これでどうだ」
二人羽織をして見せた三日月に包まれた鶴丸は、一瞬状況が飲み込めずに言葉に詰まる。
「…三日月、俺は男だぞ」
「問題ない。鶴は細い」
温かそうに鶴丸の温もりを感じて肩口に顎を埋めてくる三日月に、鶴丸は胸がくすぐったくなるのを止められない。
「まぁ、細いが」
照れ隠しむっつりとすれば、後ろで笑う気配がした。
「鶴や。もう飲まんのか?」
「…三日月が飲むなら」
俺もまだ飲む、と言いかけて振り向いた鶴丸の口を、三日月が柔らかく塞いだ。
「近いのが悪い」
あくまで艶やかな。
酔いに任せた欲を装い、三日月は鶴丸をいじった。
「…止めておけ、三日月。きみ、相当酔っているな」
身じろぎをして抜け出そうとした鶴丸は、だが意外と力の強い三日月にやんわりと囚われてしまった。
「さて、どうかな。だがこの欲、他でどうにかするつもりはないゆえ。付き合え、鶴」
そんな風に大事そうに抱き締められて、無下に出来るほど鶴丸は頑なではない。
三日月に関してだけは。
詰まるところは、惚れた弱みであった。
「だがなぁ、三日月。朝になってから後悔しても遅いぞ」
白い合わせを解かれながら、最後の抵抗は形ばかり。
「ないな、それは」
「それで、勝ちはどっちだ?」
「勝負は閨で決めようぞ。先に果てたほうが負けだ」
やはり、するのか。
三日月の本気の戯れに、鶴丸は観念して男の唇すれすれに囁いた。
「あいにく男は初めてだが、負けるわけにはいかないな」
「俺とて他の男を抱いたことはない。元々閨ごとに興味はないゆえな」
じゃあ、なぜ。
鶴丸の問いは、再びふさがれた唇に溶け込んだ。
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