クロノスの贈り物

□10
1ページ/1ページ


萩原さんと松田さんにいろいろとバレたが、返ってそれが私の心の負担を軽くし零に対して向き合えるようになってきた。2人は積極的に私の手伝いをしてくれるらしく、伊達さんの事を話すと驚かれた。

「あいつ交通事故で死ぬのか?」
「そんな事じゃ死ななそうなのにな。…人間って案外脆いもんだな」

日付も場所もわかる為、2人の協力もあり伊達さんが交通事故に遭う事はなかった。

その日私は萩原さんと一緒に事故現場となる場所に来ていた。ちなみに松田さんは萩原さんの分の仕事も片付ける為に缶詰めとなっている。
冬の朝は寒いと身体をぶるりと震わせると、それに気付いた萩原さんが手袋をした手で私の頬を包み込んできた。

「どう?あったかい?」
「あったかいですけど…」
「けど?」
「萩原さんってさらっとこういう事してきますよね。1番モテていたんでしたっけ」
「ドキッとした?もしかして俺に惚れちゃった?」
「寝言は寝て言って下さい」
「ん〜辛辣!」

ぎゃいぎゃいと近所迷惑にならない程度に騒いでいると、萩原じゃねぇか?と声を掛けられる。

「偶然だな。お、もしかしてお邪魔だったか?」
「よお伊達。この子はそういうんじゃなくて俺の可愛い妹分だよ」
「青葉すみれです。よろしくお願いします」
「俺は萩原と同期の伊達航だ。こっちは後輩の高木渉」
「あ、高木渉です。よろしくお願いします」
「同じ名前だからワタルブラザーズって言われてんだぜ!」

張り込み終わりで帰るとこなんだと疲れた表情で笑う伊達さんにお疲れ様ですと労う。仕事終わりで申し訳ないがこのまま別れてしまうのを防ぐ為に萩原さんが話題を振る。
そうして会話を続けている中で、そうだと伊達さんが懐に手を伸ばしたのを見て私は萩原さんとアイコンタクトをする。車のエンジン音が近付いてきて、私と萩原さんはいつでも動けるよう身構える。ぽろっと手帳を落とした伊達さん。それを拾おうとする伊達さんに猛スピードで迫る車から助ける為に、私と萩原さんは伊達さんの体を路肩へと引っ張った。

「危ねぇ!」
「わっ!」

すぐ横を車が走り去る。危ないなぁと高木さんが呟いた直後、その車は電柱にぶつかり停車した。

「なっ!?高木行くぞ!」
「はい!」
「萩原は救急車呼んでくれ!」
「ああ!」

居眠り運転だという運転手の怪我も軽い方で、こうして伊達さんの件も無事終わらせる事ができたのだった。

伊達さんは信頼できる相手だし力になってくれると萩原さんと松田さんのお墨付きもあった為、後日私が未来から来た事や未来の零の妻だという事を話した。びっくりするくらいあっさり信じてくれたし、助けてくれた恩を返せるように精一杯協力してやるよと輝かしい笑顔を頂いた。


さて、大学を卒業した私は何をしているかというと。

「いらっしゃいませ。あ、蘭ちゃんと園子ちゃん。今日は新一君もいるのね」

ポアロで働いている。接客経験は一応あるし、コーヒーの淹れ方などは零に教えてもらった事があるから仕事内容に関しても特に問題がなかった。マスターもこれならすぐにお客様に出せると褒めてくれた。
零が後々ここで働く事になるので、私は微力ながら力になりたいとポアロで働く事にしたのだ。探偵の仕事って事でシフトに穴を空ける事が多かったって言っていたから、私がその穴埋めをできたらいいなぁと思って。零が本業に集中できるように。私にはこれくらいしかできないから。

まだ幼さの残る新一君達にほっこりする。周りからは夫婦だなんて言われてる新一君と蘭ちゃんは恥ずかしいのか否定している。そんな2人にお姉さん(中身はおばさん)からアドバイスよ。

「時には素直にならなきゃ。後から悔やむから後悔って言うんだからね。それと、周りももう少しおとなしく見守ってあげなきゃ。周りが騒ぐからつい反発しちゃうのよ」
「…すみれさんって見た目よりずっと大人よね」
「おばさんって言いたいのかしら」
「違いますよ!」

新一君達が高校2年生になりしばらく。コナン君が蘭ちゃんの所にやってきた。コナン君の事ももちろん零から聞いている。小学生ながらとても頭の良い子だと。零にも一目置かれる存在に私も会ってみたいと言ったが、海外にいるし俺も会ってないからちょっと難しいかもなんて苦笑された。新一君の親戚らしいので新一君にもコナン君の事を聞いてみたが、終始苦笑いしながら話してたのが少し気になってたりする。コナン君何者だよと思った私は悪くないと思う。

「最近新一君見ないね。どうしたの?」
「新一学校にも来てないんですよ!なんか事件が忙しいからって」
「そっかぁ。丁度コナン君が来たくらいだよね。新一君見なくなったの」
「言われてみれば確かに…」
「た、たまたまだよ!」
「蘭ちゃんでもコナン君でもいいんだけど、新一君に連絡できるようなら伝えてくれる?貴方は探偵である前に高校生なんだからちゃんと学校来なさいって。あと、貴方が探偵として捜査できるのは警察にツテのあるお父さんや知り合いの刑事さんのおかげなんだからって」
「わかりました!新一によく言っておきます!」
「そうそう。コナン君もよ?よく事件に巻き込まれてるって聞くけど、あまり警察の邪魔をしないようにね。コナン君のおかげで解決した事件があるのは知ってるけど、事件をただの謎解きって考えちゃ駄目。被害者や被疑者の気持ちも考えてあげてね。コナン君だって自分の事あれこれ探られて、それを大勢の前で言われるの嫌でしょう?」
「はぁい」

コナン君って本当に何者だろうか。大人顔負けの推理をするのに、突然思い出したかのように年相応に振る舞う。それに子供だからわかんないって言う時あるけど、あれってどうなんだろうか。コナン君くらいの子ってあまり子供扱いされたくないはず。現に他の少年探偵団の子…哀ちゃんはまたちょっと違うんだけど、歩美ちゃん達は大人として扱ってほしいみたいだし。自分で子供だからなんて言うだろうか。なんかコナン君ってちぐはぐなのよね。

そういえば以前、ひょんな事から私は宮野明美という人に出会った。名前だけは志保ちゃんや零から聞いていた。私は明美さんがなぜ亡くなったのか聞いていない。志保ちゃんはあまりその事について話したくなさそうだったし、悪いと思いながら調べても出てこなかったのできっと病気か不慮の事故だったのだろうとその時は思っていた。
私が明美さんと関わる事で明美さんの未来を変えられないかと、その後も交流を続けていた。定期検診を勧めたり事故には気を付けるようにと度々言うもんだから、明美さんからお母さんみたいと笑われてしまった。

「そんなに言うからこの前病院行ったけど何もなかったわよ」
「そう?ならいいんだけど」

そんなある日。明美さんの表情が暗い事に気付き私はどうしたのかと問い質した。言おうか迷っている明美さんをなんとか説得し、私は明美さんから事情を聞く事ができた。

「妹を人質に取られてる…妹と自由になる為に私は手を汚さなきゃいけない……」

志保ちゃんが人質に?想像以上に深刻な問題に私は伊達さんに相談しようとした所でふと思い留まる。明美さんは零とも関わりがあった人。なら風見さん経由で零に伝えた方がいいのではないか。
明美さんと別れた後、私は風見さんに連絡を入れた。すると後はこちらに任せて下さいと言われた。そしてそれ以降明美さんとは連絡がつかなくなった。明美さんがどうなったのか詳しく聞く事はできなかったが、風見さん曰く心配いらないとの事だったのできっと明美さんの未来も変えられたと信じる事にした。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ