この親にしてこの子あり

□キスは蜜よりも甘く
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今日はマーマが少しだけ遅くなる日らしい。夕飯の支度をする時間には帰れるが、丁度冷蔵庫の中が空になった所なので買い物しないといけないのだとか。そこで買い物は私が引き受ける事にした。

私は今激安タイムセールが売りのスーパーの前に立っている。いくらパーパのおかげでお金があるからって、以前の節約生活が抜けた訳ではない。スーパーは戦場。特にここは激戦区だ。おつかいをした事はあれど、私が1人でタイムセールに挑むのは実は初めてである。マーマが小さな私を危惧してカゴの番しかさせてくれなかったのだ。

「あれ?もしかしてすみれちゃん?」
「あ、蘭お姉さん!」

いざ戦場へと足を踏み入れようとした時、声を掛けられ振り向くと学校帰りなのか制服を着た蘭お姉さんがいた。家事は蘭お姉さんがしていると聞いた事があるので、きっと日課の買い物に来たのだろう。

「もしかしておつかい?」
「うん。今日はマーマが遅くなるから買い物は私がしようと思って。」
「そっかぁ偉いね。」
「蘭お姉さんも偉いと思うよ!学校とか部活で忙しいのにいつもご飯作ってくれるってコナン君が言ってたよ!」
「ふふっありがとう。…ここ、これからタイムセールで凄い事になるけど大丈夫?」
「実はちょっとだけ不安。タイムセール初めてなの。」
「…よし。私がタイムセールを勝ち抜く秘訣を教えてあげる!」

私は強力な助っ人を手に入れた。

「まず大事なのは気合いよ。ここにいるのはベテラン主婦達だから、気持ちで負けてたらまず勝てないわ。」
「うんうん。」
「すみれちゃんの強みは小柄な所ね。隙間を縫っていけば比較的前に行きやすいと思うよ?」
「なるほど。」

蘭お姉さんの指導の下タイムセールに挑む。ちらっとライバルの主婦達を見てみると、なんだか仕事をしてる時のパーパみたいな表情をしている。それ程このタイムセールに力を入れているという事だろうか。尻込みしそうになるのを頬を叩く事で立ち直らせる。気持ちで負けちゃダメ!

結論から言って欲しかった商品をゲットする事ができた。すごい疲れたけど。ふぅと深い溜め息を吐く私に対して蘭お姉さんは今日も豊作だと満足そうにしている。さすがタイムセールの猛者。

「蘭お姉さんありがとう!」
「どういたしまして。気を付けて帰るのよ?」
「はーい!」

スーパーで蘭お姉さんと別れ帰路に着く。牛乳とめんつゆとサラダ油を買ったせいか少し重くて途中で1度荷物を下ろす。すると横からひょいっと荷物を奪われ、誰だと顔を向けるとそこには大好きな陣平お兄さんがいた。

「あまり無理すんなよ。」
「陣平お兄さん!」
「おら、家まで持ってってやるから行くぞ。」
「大丈夫だよ!」
「お前ふらふらしてたぞ。危なっかしくて見てらんねぇよ。」
「…ありがとう。」
「ん。」

陣平お兄さんは荷物を持った手とは反対の手を私に差し出す。私はそれに応えぎゅっと握ると、陣平お兄さんもしっかりと握ってくれた。やっぱり陣平お兄さんの手、おっきいなぁ。

陣平お兄さんは冷蔵庫に仕舞う所まで手伝ってくれた。少し時間があるとの事でお茶を振る舞うと、前より淹れるの上達してると褒めてくれた。花嫁修行頑張ってますから!
帰る陣平お兄さんを玄関まで見送りもう1度今日のお礼をする。私は少し考えちらりと陣平お兄さんを見上げる。

「ん?どうした?」
「…あ、あのね?ちょっと屈んでくれないかな?」
「?あぁ。」

私に目線を合わせた陣平お兄さんに、私は顔を近付け思い切ってほっぺにちゅーをした。

「き、今日のお礼とお仕事頑張ってって事と怪我しませんようにって願いを、込めて…。」
「……。」
「…じんぺ、」

何も言わない陣平お兄さんに断りも無しにちゅーはダメだったかと不安になると、陣平お兄さんはそっと私の前髪を上げ剥き出しになったおでこにその唇を落とした。脳に直接響いてくるようなリップ音に顔が熱くなるのを感じる。

「〜っ?!」
「ふっ…くくっ!おいおいでこちゅー程度でそんなに真っ赤になってたら、いつかここにされた時どうなるんだ?それとも、」

そう言いながら人差し指で私の唇をふにっと押す陣平お兄さんに私はキャパオーバーを起こす。

「今、試してみるか?」

いつもより低い声で囁かれ頭が真っ白になる。こ、こんな陣平お兄さん知らない。かっこいい。色気やばい。ずるい。これが大人…。

「冗談だよ。じゃあな。戸締りはしっかりしとけよ。」

いつもの陣平お兄さんの顔になり、最後にぽんと頭を撫でられる。パタンと閉まるドアを眺めた後のろのろとリビングへ戻ると、マーマが帰ってくるまでその場をゴロゴロと転げ回っていた。


「なぁありさ。なんだかすみれ変じゃないか?ぼーっとしてるし顔も赤い。かと思えば顔を覆ったりソファーに伏せったり。もしかして具合が悪いのか?」
「あぁ…そういう訳じゃないんだけど。」
「なら?」
「んー…気になるならすみれに聞いてみたらどう?(聞かない方がいいと思うけど。)」
「そうか?……すみれ、どうしたんだ?なんだか今日は様子がおかしいぞ?何かあったのか?」
「…じんぺーお兄さんにちゅーしたら…お返しにちゅーされた…。」
「はぁ!!?」
「(言葉が足りてないせいで少し勘違いしてそう。)」
「…あ、あんな……〜っ!」
「すみれのファーストキスが…!松田の野郎殺す!!だいたい俺だってちゅーされた事ないのに!!すみれ!!俺にもしてくれ!!」
「零さん、すみれがしたのはほっぺでお返しはおでこに、」
「もしもし萩原か?!ちょっと今から松田をぶっ殺しに行くんだがお前も来るよな!?すみれの純潔が奪われた!!」
「聞いてないわね。」

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