short story

□星に願いを
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「先生は先生のことだけ考えていればいいよ。」
自己嫌悪に陥っている俺が哀れだったのか、それとも本心なのか。
「俺なんかのことを考えないで。自分のことは自分で出来る。」
何か決意のように、凛として言い放つものだから、お前なんて必要ないよと見放されたような気分になる。



「俺には誰かを幸せにしたりは出来ないけれど、それでも誰かを不幸にしたりはしないよ。」
「六条?」

「大丈夫、ちゃんと消えるから。」


森羅万象のことを言っているのか、どこか遺言めいた言葉に不安を覚える。
穏やかに微笑んだ表情にはどこか寂しさが滲んでいて、ただそれだけで胸が締め付けられるようだった。

「お前、何をしようとしているんだ?」
そう問うと途端に小悪魔な表情になって「秘密」と答えた。

「でも先生との約束は守れない。俺は森羅万象を使う。これは俺の意思。隠の王の意思。」

「森羅万象は人間が手出ししてはいけないものだ!」

陳腐な台詞に聞こえるだろうか。それでもこの黒い感情は誰にも伝染させてはならない。
ましてやこんな表情をしているこの子に背負わせるわけにはいかない。

「先生…。俺ね、思うんだ。
森羅万象は自然の摂理になんて反していない。
人間が自然から生まれたのと一緒で、人間が作ったものならそれもまた自然の一部なんだって。
自然の摂理なんて言葉は、人間が勝手に作った縛りであって、人間の驕りだよ。」

「だから使うというのか!」
俺は
「もう誰も悲しませたくないんだ…!
頼むから…!」

自分でも呆れるほど情けない声で呻いた。
彼はそれでも微笑んで「大丈夫、俺も同じ考えだから。」と呟いた。
それはそれは穏やかな表情で。
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