short story

□星に願いを
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修復しようの無い溝に、ハマったままの俺は何も言い出せずに、数歩の距離を置いて彼と対峙している。


隣の部屋という絶妙の状況下。
気分転換にと廊下に出て窓際にもたれていた。
考えがまとまらずに悶々としていたところに、彼がひょっこり現れた。
何も言わずに、反対側の窓際に身を寄せた。

森のようなこの学園は目に入る明かりなどほとんどなくて、無数の星が綺麗に見えた。

向かいに佇む彼はしばらくの間沈黙を守っていたが突然小さく「あ」と呟いた。
いつも物事の裏を見るような目をしているのに、何に興味をそそられたのか、少しばかり見開いて
ある一点だけを見つめていた。
不思議そうに見ていたのだろう。
彼はこちらを向いて「流れ星」と呟いて、小さく微笑んだ。
青白い月明かりに照らされて一層白く浮き立った表情に、中学生とは思えぬ色香が見える。
教え子に対して何を思っているんだと煩悶していると、俺の返答に痺れを切らした彼は問うた。



「先生だったらどんなお願い事する?」



今までの経緯からいって、とてもこんなのほほんとした会話が成立するとは思えなかったが、
彼がこれほどに普通に、また子供らしく接してくれるのが嬉しく、しばらく逡巡してから答えた。

「六条から森羅万象が消えますように。」
「やめてよ。そんなの。」
即座に返された言葉に眼をまるくした。怪訝な表情を浮かべ、むしろ侮蔑に近いような雰囲気さえ漂わせている。
何かのシュミレーションゲームで選択を誤ったかのような雰囲気だ。

では彼はどんな答えを望んでいたのだろう。

隠の世の話など出さずに、平穏だった頃の二人のようなゆるい答えを期待していたのだろうか。
無関心を貫いてきた彼にとって現実は考えることばかりで、疲れるのかもしれない。
隠の世から少し離れてみたかったのだろうか。

だとしたらとんでもないミスを犯したことになる。
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