短夢

□今だけは傍に
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『坂田って残酷よね』


「はあ?」


『ううん、別に』






買い物の帰り多分パチンコかなんかの帰り道だったんだろう、ばったり坂田に会った。

それで私が両手に荷物抱えてたから持ってやるって奪い取られる様にして荷物を取られてしまい大人しく隣を歩いてる時にふと思って呟いた。



そしたらすっごい不機嫌そうな返事が返ってきた。

不機嫌というか、意味がわからないと言った様子といった方が正しいかもしれない。






「つーかお前こんなになるくらい買い物すんなら言えよ」




『どうやって』




携帯とか持ってないくせに。


万事屋に行ったっているかわからないし会いたくない人に出くわしちゃったりしたら嫌だし。



ほら、連絡する方法なんてないじゃない。

わかってるくせに、そんなこと言うのはやめてほしい。











「あー…」





『ふふ』



「笑うなっつーの」





言葉につまって罰が悪そうにするところはなんだか笑える。

そーゆーのもかわいくて好き。






「今日夕飯なにつくんの?」



『内緒』



「んだよそれ」


『当ててみて』


「…んー肉じゃが?」


『カレー』



にんじんお肉じゃがいも。
坂田の持つビニール袋に入ってゆらゆら揺れる。

ほんとは肉じゃがかカレーか迷ってた。けど坂田が肉じゃがって言ったから今日はカレーにする。





『俺今日の気分肉じゃが』



「知らない、坂田の気分なんか」




そんなことだと思った。

食べたい方を答えるもんね。


それであわよくば私の家で夕飯食べてやろうって思ってるんだ。


自分の食べたい方私に言って私がメニュー変えて優越感に浸りたいんでしょ?


私はあなたが好きだって感じたいんでしょ?


『彼女に作ってもらえばいいじゃない?』



「……」




黙るんだ。

妬いてると思ってる?

こんな関係私に悪いと思ってる?


それとも










やっぱりめんどくさい女だって思ってる?


『ここでいい。すぐそこだから』




言うと立ち止まった坂田に手を伸ばし荷物を頂戴、と催促する。

いつの間にか辺りは暗くなり始め、肌寒くなっていた。




「送る」



『……』




目を見てくれない。





無性に寂しくなった。


言わなければよかった、と後悔した。


私はね、嫌いになってほしいの。

こんな関係もう嫌だから。


私に会いに来てくれるのも私が会いに行くのもキスするのも手繋ぐのも抱かれるのも
すごく幸せ。


幸せだけどやっぱりどこか苦しい。

あなたも本当は苦しいんじゃないの?







『…ごめん、なさい』








私が悪い、私が。


好きになるかもしれない、

そう思ってたの。そこで離れればよかったのに。

離れなきゃって思った時にはもう遅かった。

この優しさも香も仕草も声も目も鼻も口も腕も大きな手も全部すき。











好きになってしまった。




何度思ったかな何度悔しいと思ったかな。

私がもっと早く出会ってればよかったのに、と。




鼻がツンとする。

風が冷たい。






『…』





足を止めた。




私の方に伸びる大好きな手。




『…』




嬉しい、繋ぎたい。






『いや』


「俺は繋ぎたいのー」



『…』






荷物を奪われた時みたいに乱暴に繋がれた手だけどどこか優しい温もり。



ぎゅっと握られてる。


まるで離さないって言われてるみたい。






『片手に二つも持って重くないの?』


「おー」


『そ。』




繋いだ手、伸びた影。

手を繋いだままぐーっと離れてみる。
ちら、と見られるのを感じた。




『お、』


手をぐっと引かれ、手が離されるとその手が肩に回り、引き寄せられる。




「離れんな」


『……ん。』





私も一緒。

あなたが私を好きなのか試してる。好きだって感じたい。


肩に回された手を取って頭をくぐらせると腕を絡ませた。


これでもか、ってくらいぎゅーっとくっついた。


見上げると目が合う。

そして照れ臭そうに笑った。

その顔もすごく好き。


あなたには幸せになってほしい。苦しんでほしくないの。


そのためには今のままじゃだめだって知ってる、ちゃんと。



わかってる。


でもね、ダメなんだ。


決めたはずなのにまた離れたくないって思っちゃうんだ。




あなたがいい。


他の男なんていらない。







そう思っちゃうくらい好きで好きで大好きなの。




ねえ、彼女のこと好き?


彼女とはどんな話してるの?


どんな風に
触れてどんな風にキスするの?

私の知らないあなたを彼女は知ってる?
そんなこと聞いたって


あなたが真面目に答えてくれるわけないってわかってるし私だって聞く勇気なんてない。





いつかはさよならするかもしれない、いらないって言われちゃうかもしれない。




それでもあなたの傍にいたくてあなたを傍に感じたくて離れたくない。





今は












『ねえ』


「んー?」





『やっぱり今日肉じゃがにする』


「…食ってっていーの?」



『ん、そのつもりで言ったの』



「あ、じゃあついでにあそこでデザート買ってこーぜ」



『坂田の奢りね』



「まじでか」








今はまだやっぱり


あなたの傍に居たいです。


今だけはあなたの傍に

(少しでも長い時間。)
 

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