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□ぐしゃぐしゃ
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情事後、高杉はいつも俺を抱きしめる。それが高杉の癖。高杉はそれに気付いていない。背中の爪痕がその証拠だ。俺の背中に赤く残る小さい傷は、無意識のうちに高杉が強い力で爪を立てるからだ。まるで、赤ん坊みたいだなと俺はいつも思う。うずくまるようにして寝そべる高杉は俺を抱き枕のようにぎゅっと閉じ込める。そんな小さい体のどこにそんな力が詰まっているのか。そう不思議に思うと、高杉がまるで宇宙のように見えた。俺はいま宇宙に閉じ込められているのだ、と。目は底なしの暗さでブラックホールみたいに引き込まれる。それが、神秘的なように思えて、俺も高杉を離したくなくなるのだ。お互いがまるで生きていることを確かめ合うみたいに、抱きしめる。このまま、交わって一つの肉塊になればいいのに、と俺は密かにいつも望んでいる。それは決して叶うことのない望みだ。
ふと、視線を高杉に戻すと、肩が震えていた。寒いのかとより一層強く抱きしめてもまだ収まらない。
「なあ、ぎんときぃ…」
暗闇で高杉の目だけがギラギラと光る。
「お前は、俺の男だよな」
何処が、ぼうっとしたような声がする。どう返すのが一番なのか困ってしばらく黙る。そうすると、また高杉の声が聞こえる。呟くような小さな声。高杉はその細い腕を、俺の首回す。そして、胸板に顔を埋めた。
「銀時は…俺の男なんだ。なんと言おうが俺の男なんだ」
顔は見えなかったが、声がとても悲しかった。これまた、どんな言葉を掛けてやればいいのかも分からず、ふと目に入った綺麗な髪を丁寧に梳く。
「なんだよ…」
少し涙声になったような情けない高杉の声に笑う。笑ったら足で脛を蹴られた。痛い。俺はそんな彼が愛おしく思って自然と顔が柔らかくる。
「愛でてんの」
愛してるなんて言えなくて、その一言だけを言ったら、今度はすすり泣くような音が聞こえた。どうして、こんなにも俺を掴んで離せなくさせるのか、高杉晋助が俺は怖い。
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情事後はいつも銀時を抱きしめる。それが俺の癖だった。銀時の大きな背中にはポツポツと赤い小さな跡が残る。どうやら、無意識に爪を立てているようで必ずと言ってそれは出来る。それでも、銀時は何も言わずに抱きしめてくれる。このままずっと抱きしめていたら、混じりあって一つの肉塊になったりしないだろうかと、有り得ないことを考えるぐらいには、頭がぼうっとする。
あやふやな頭で考える。銀時は俺の男なんだ、と。銀時もそう思ってるに違いないと、変な確信が湧いてくる。
「なあ、ぎんときぃ…」
自分の声が思った以上にもカサカサでみっともなかった。銀時を抱きしめる度にエネルギーが吸収されてるみたいだ。
「お前は俺の男だよな」
そう聞いても銀時からの返事はない。
でも、コイツは、銀時は俺の男なんだ。誰がなんと言おうと俺の物だ、俺の男だ。そう囁くように言って、銀時の首に手を回し縋る。すると、銀時は俺の髪を丁寧に梳いた。その一つ一つの動作に泣きたくなってぐしゃぐしゃの声でなんだよ、と言うと銀時は笑いながら「愛でてんの」と言った。
その言葉に何故か胸がいっぱいになって、涙が溢れて止まらなかった。
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