世界を歩く

□第一話
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イル王にリン、と名付けられた少女は、それはそれは美しい子供だった。
黒く艶やかで質の良い髪に、二重でぱっちりとした紫水晶の瞳。日焼けを知らない白い肌は、まるで生命を感じさせない、作り物めいた神秘的な輝きがあった。

王と王妃はそんな我が子を深く愛し、空いた時間を見つけてはリンに会いに行き、自らの言葉でさまざまなことを教えた。

リンは年のわりに随分と落ち着いており、何をやらせてもそつなくこなした。
そしてリンが五歳になるとき、イル王が涙ながらにリンを軟禁している理由を話した時も、リンは微笑んで、目尻に涙を浮かべながら「話してくれてありがとうございます、父上」と言った。

人を傷つけることを嫌い、決して武器を持たなかった王は、リンに武器を取らせた。
王妃がわけを聞けば、
「あの子はいつか城を出なければならない。どんなに愛しい子でも、王は国民を選ばなければならないのだ。だから、あの子には少しでも多く生きる術を学ばせたい」
と悲しそうに言った。

そんなリンが6歳になった春の日、王が離宮にリンと同い年くらいの二人の子供を連れてきた。
片方はリンよりも少し背が高く、全体的に色素の薄い少女で、もう片方はリンと同じくらいの身長の、黒髪蒼眼の少年だった。

「この子たちは今日からお前の従者だよ。姉のソン・カナとその弟のズシだ。」

にこにこと笑う王に紹介されて、二人は前に出た。

「よろしくお願いいたします、姫様」

「よろしくな、姫さん」

「ちょっとズシ、言葉遣い!」

仲のよさげな二人のやり取りに、リンは声をあげて笑う。

「同じくらいの年の友達が居なかったから嬉しいわ!よろしくね」

ひとしきり笑ったリンが微笑んで手を伸ばすと、カナが満面の笑みで、ズシが照れ臭そうに握手をする。

これからこの三人は苦楽を共にすることとなるのだが、まだ知るよしも無かった。
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