TIGER&BUNNY

□プロローグ
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はらはらはら......と辺り一面に桜の花びらが散っていた。桜の古木に囲まれて。
若草色に輝く緩やかな丘の上に立っている少女は
まるで薄い桜色の雲の中に佇んでいるように見えた。
ヒーローアカデミー無事に卒業したティンクは
今年の春から正式にシュテルンビルトでヒーロー
デビューすることが決まっていた。
憧れの先輩ヒーローであるバーナビーや
折紙サイクロンと同じ舞台に立てるなんて
まるで夢の様だ。
ティンクのNEXT能力は風と植物を自在に操ることだ。個性が2つと言うのうは本来であれば
有り得ないことなのかもしれない...
そのせいで幼い頃から周囲から
疎まれたこともある。
しかしヒーローになれば自分の個性を十分に
発揮出来るかもしれない...
そう思ってヒーローを志した。
今日限りでヒーローアカデミーでの寮生活も
終了だと思うと少しだけ寂しい...
後ろ髪を引かれる思いで
ティンクは配属先のアポロンメディアへ向かった。

その時ゴールデン·ライアンは新しい所属先
アポロンメディアへと向かう途中だった。
オーナーのシュナイダーに呼び出されて。
あまりいい予感はしていなかった__きっとあのことだろう。ヒーローデビューイベントのこと。
アレに出るように俺を説得する気なんだ、きっと___面倒くさいな、と半分は観念しているくせに、
やはりライアンは憂鬱な気持ちになる。
シュナイダーとは海外で活躍している頃から
一緒になった仲だ。
しかし今度ばかりは大きなお世話だと
ライアンは思っている。
ヒーロー活動をする上で相棒なんて、そんなものはいらない。と胸の内でつぶやいた。

『コンビですか...?』
『そう、ティンカーくん君には今期からコンビでヒーロー活動してもらうから』
ティンカーはオーナーのシュナイダーに呼び出されていた。デビューする条件として二人一組のコンビでデビューということらしい。
そうなるとパートナーは誰になるのだろう? 
やはり同じアカデミー出身の折紙サイクロンか?

昼休みの廊下にざわめきが広がる中を。
ライアンは鬼のような形相でずんずんと
先を急いでいた。
『あ、ライアンよ...』
『やっぱりコンビを組むって噂、本当なのかしら?』
そんなヒソヒソ声はライアンの耳には__
全く入っていなかった。
怒りをこらえてライアンは廊下を急いでいる。
行く前は____ばああああんっ。
大きな音をたててスタッフルームの戸を開けた。

『オーナー!!これはいったいどういうことなのか 説明してもらおうか!』
仁王立ちになってくしゃくしゃになった紙___
掲示板からはぎ取ったらしい新ヒーローデビューの告知を突き出したライアンの目線の先には。
トントントンと手にしていた書類をわざとらしく
そろえ、おもむろにコホンと咳をする__
シュナイダーの姿があった。
いつも穏やかなライアンの怒鳴り込み。
周囲にいた書記や会計などのスタッフに
驚愕が広がった。
ここはアポロンメディアのスタッフルーム。

『お早いお着きでしたね、さすらいの重力王子__
いえ、未来のキングオブヒーローとお呼びさせて
いただきましょうか?』
周りのスタッフの動揺を手で制しながら__
そう言ってクスクスと笑った
シュナイダーは、でも心なしか少し不安そうにも見えた。クッ......。そこでライアンはのどの奥を
鳴らし歯を食いしばる。
そして何かをこらえるように拳を握ると、
いっそう低くなった声で続けた。

『たしかにデビューイベントに出ること承知したよ。オーナーが来て___嫌なのは分かってるけど
どうしてもお願いする、我らがアポロンの白い星のためにどうか一肌脱いでくれないかって__
いつになく真剣な顔で頼むから__』
ライアンは天を仰いで目を閉じる。そんな何気ない姿ですらあまりに決まっていて__見ていた
周りのスタッフから感嘆のため息が漏れる。

『観念してくれってそう言われて今年くらいは仕方ないかなって思いもした。オレだってこのアポロンが大切だ。だからアポロンが勝つためにはオレが出るしかないって言われれば__別にそんなことはないと思うけれど__でも普段はおちゃらけたオーナーにまで真剣に言われたら...そうかって仕方がない、1年の我慢だって__』
いくらオーナーが推薦した相手だからって、
何で俺が新人ヒーローとコンビを
組まなくてはいけないのか...。

『王子様...?』ライアンのあだ名はダテじゃなかった。ライアンを初めて見たたいていの女性は何の
予備知識もなくやはりこういう感想を持ってしまうのだ。
今、ティンカーの目の前には金色の王子様がいた。
長身や髪型、スタイルといったデティールではなく、その空気と存在とが、ティンカーの本能に
王子様の到来を告げている。プリンスの呪い__
ライアンにはそれがかけられているという
笑い話もあった。

『天使...?』
シュナイダーと一緒にいたティンカーの存在感に
気づいたのかライアンはハッと顔を上げる。
するとそこには1人の天使がいたのだ。
彼女の腰までの巻き毛は金色に輝き、頭上には  艶やかなエンゼルリングが光っていた。
小さな細い顔は繊細かつ高貴な紗がかかった夢の
ように光り輝き、小柄な体はいかにも愛らしく、
細い肩は見てわかるほどいたいけに震え__
それはまるで清らかな天の御使いが野蛮な
地上の者に見つかってしまった驚きにうたれている
かのように見えた。
そしてそこには実在しなかったけれど。
少女の背中の向こうに上に広げられた眩く白い
大きな羽が__ライアンの目にはそのとき確かに
見えたのだ。

 
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