妄想吐き溜め

□告白(4)
1ページ/2ページ

こういう時ばかりは本当にこの仕事が嫌になる。
笑いたくないのに笑顔でいなければいけないし
本音を切り離して演じなければいけない事が
ななは心底嫌やった。

なーちゃん元気ないね?大丈夫?って休憩中他のメンバーに声をかけられたけど曖昧な返事しか言えんかった。

かずみんとは撮影前の楽屋で会った。
高「なーちゃん昨日は本当にごめん。だけどなーちゃんと気まずくなるのは嫌なんだ。友達のままで良いから、また一緒にいて欲しい」って

かずみんの方から声をかけてきてくれた。
ななから声をかける事が出来んくて…かずみんの言葉に…ななは、嬉しかった

なな最低やな…
あんな事があったのにかずみんがまた声をかけてくれた事が嬉しいなんて…

高「なーちゃんを好きな気持ちは変わらないけど…でももう二度と、なーちゃんの気持ちを無視してあんな事はしないって誓うから…」

西「…うん…ななも、このままかずみんと気まずくなるのは嫌やから…」

高「良かった…ありがとう、なーちゃん」
そういって嬉しそうに笑顔になるかずみんにさえ、ななは救われてしまった。
まだお互いにぎこちなさは残っていたけど、かずみんと一緒におれる事が…嬉しかった…



撮影も終わりにさしかかり、今日の宿泊先のホテルの部屋割りが、今回ななはまいやんと同じ部屋だと知らされた。

瞬間ドクンと心臓が高鳴る

高「なーちゃん!まいやんと同じ部屋、良かったね!」
って笑顔のかずみんに、チクリと心が痛んだ。

かずみんはそんなななに気付いたのか頭をポンポン撫でてくれて…何で…こんな優しい人がななみたいなんを好きになってくれたんやろな

そう思うと、まいやんと同室になれた事を手放しにも喜べなかった。


部屋までの道のり、かずみんとは階違いで分かれて部屋の前に立つ。
鍵を開けてドアノブを回すと
お風呂場からシャワーの音が聞こえてきた。

なんとなく、まいやんと顔を合わせずにすんだ事にほっとした

部屋に入り荷物を整理する。
まいやんはまだお風呂。

テレビを点けてみたけど何もオモロいものもやってなくて、テレビはつけたままにななは持ってきたゲームを始める。

いつの間にかゲームに夢中になっていたななは、ホテルのドレッサーに化粧品を置いて明日の準備をしてるまいやんに気づく。

いつ見ても綺麗やんな…


不意に鏡越しに目が合う

西「っ…」
(ヤバっまいやんの事じっと見てたのバレたっ)
焦るななを尻目に

白「七瀬もお風呂入ってくれば?」

何とも思ってないような口振りのまいやん

西「ぅ…うん、せやな。そうするわ」
内心ほっとして、寝巻きとお風呂場で使うシャンプーやら一式の入ったトラベルバックを探す。

あれ?…

どんなに探してもカバンの中から目的の物が見つからない。
確かに家から持ってきたのに………と思った瞬間

…あ…………かずみん家や…

と気が付いて


西「…まいやん」

白「ん?」

まいやんが振り返る。

西「ごめんやけど、シャンプーとか忘れちゃったみたいやねん。借りていい?」

白「うん、いいよ。バスルームにあるから好きに使いな」

って笑って言ってくれる。
お礼を言ってお風呂場へ向かうけど、かずみん家に忘れてきたという事が、昨日の一件を思い出させて足取りも心なしか重くなる
いや別にまいやんにとったらどーでもええ事なんやけど…

……

…なんや自分で言ってて悲しくなった




西「まいやん、借りたで。ありがと」

お風呂から出るとまいやんはベッドで座りながら今日の振りの確認をしてた。
西(そういう所も真面目やんな)
ななももう片方のベッドの方へ足を進め、ダイブ。

はぁ、なんや疲れた…
お風呂に入ってベッドに転がると一気に眠気に襲われた

白「いやいや七瀬、髪乾かしてから横になりなよ。」

ってまいやんの言葉も聞こえてるけど曖昧な返事しか出来へん。
動きたくない…

白「そのまま寝ちゃうと明日の朝髪の毛が凄いことになっちゃうよー?」

ベッドから降りてななの背中を揺すってきたけど、もうこのまま寝てしまいたいから無視。
せや、昨日もろくに眠れんかったし…

白「ほら、七瀬ぇ〜髪乾かしてから寝よ」

ってななの腕を引っ張るまいやん
無理矢理起こされたけど、ななは既に半分夢の中


白「………」


しばらくしてまいやんのため息らしきものが聞こえた気がして、こんなななに呆れたやろか
って夢現つの頭で思っていると…
頭に暖かい風とまいやんの手がななの頭に触れる。

西(………気持ちええ…)

程よい風と優しい手つき
香ってくるまいやんの香りに胸がギュッてなった

この時間が永遠に続けばええのに…
そう思ったって無情にも終わりはやってくる。
暫くしてななの髪を乾かし終えたのかドライヤーの電源が切られ、コードを纏める音がする。
後ろにいたまいやんが離れてく…そう思うと寂しくなった。
まだ離れんで欲しい…

そんな事を思ってしまったななやからかな…
そんなななにとうとう天罰が降る時が来た。



白「七瀬、ここ虫刺され?」

西「んー?何?」

白「ほらここ。」

って鎖骨辺りを指差された所に視線を何気なしに移す

…と、


西「………」

さっきまでの夢現つが嘘みたいに一気に現実へ引き戻された。昨日の出来事が思い出されて血の気が引くのが分かった
時を戻せたら…なんてアホみたいな事も思った

白「…七瀬?」

西「………」


勿論時間が戻るなんて事はなくて、尚も時間は容赦なく進む。

白「何処かでぶつけた?」

西「っ………せ、せやねん。」
咄嗟に出た言葉は自分でも分かる程頼りないもので

なんやろ…まいやんの落ち着いた声が…


怖い…

白「それにしては珍しい所だよね。何処でぶつけたのかな?」

西「………」

白「…七瀬?」

まいやんの言葉に、泣きそうになる

白「コレ、ぶつけたんじゃないんでしょ?」


確信をつく言葉に
ドクっと心臓が跳ねて

西「………」


白「七瀬…」


喉がカラカラする…
やっぱり嘘なんてつくもんやない…

西「…っ…な…なんで…」



分かったん?
最後の言葉は口にしてなかったはずやのに


白「分かるよ。…七瀬、彼氏居るの?」

西「おっおらへん!!」

まいやんの口から出た言葉に必死で否定する。
彼氏なんておらん!!
ななが好きなんはっ………!!

白「じゃあ、何で?」

まいやんの言葉に息がつまる。

何で

当然の疑問だ。
こんなもの普段の生活でつくはずがない
ましてやななたちはアイドルというお仕事をしているのに…
落ち着いたまいやんの声
まっすぐみつめられる瞳に自分の醜さが見透かされそうで…その目が怖くなったななは視線を逸らす

白「…」

西「…っ」


白「誰に、付けられたの?」


尚も問い詰めるまいやん。
何から…どう、言えばええんや…

混乱する頭。


白「七瀬」

不意に優しい声で名前を呼ばれる
視線を上げるとまいやんと目が合って

西「…ま…まいやん…」

白「ん?」

依然優しく声をかけてくれるまいやんに
その、優しさに…泣きそうになる
その顔を見た瞬間、もうありのままを話すしかないと、思った。



正直に話すから…やからせめて、まいやん…

西「…っ………き、……きらいに…ならんといて……」


白「うん、…大丈夫。話してごらん。」

喉が灼けるように熱くて、それを抑えるのに必死で暫く何も話せんかったけど、まいやんはななが話し始めるまでずっと待っててくれた。
そうしてやっと気持ちも落ち着いてきた頃
西「………なな…最近かずみんと…おるんやけど…」

まだ声は震えとるけど…

西「この前、かずみんの家に遊びにいってん。…それで、お泊りする事になって…」


西「かずみん…ななの事が好きやって……こ、告白…された」


暫くの沈黙の後

白「……それじゃあ七瀬は、かずみんと付き合ってるの?」

まいやんの問いにななは首を横に振る。

西「ななは………ななは、好きな人がおるから…って…断ってん………やからかずみんとは付き合えんって…言った………や、…やけど……」


次の言葉が………出てこない……


白「………だけど?」


ゴクリ…と、息を呑んで

西「き、…っキス、させて欲しい…て、言われ…て…っ、ななも…断り…きれんかった…」

まいやんの顔が見れない…


西「な…なな、前からかずみんに…相談…しててん…」


白「………何を?」

西「ななの…好きな…人の事で」

西「ななの…好きな人は…絶対ななの事振り向いてくれん人で…それをずっとかずみんに相談しててん」

西「かずみんが告白してくれて…なな、驚いたんやけど、………もう、振り向いてくれんのやったら…って…かずみんの優しさに甘えた…ななは………な、流されてん…」


西「その時…付けられた…」


白「………。」

西「なな、…最低やねん…」


ほんま、最低や…


西「や、やけど!…やっぱりアカンって思って!…っ、………や、…やから……っ、…それ以上は…し、してない………」


まいやんの顔を見るけど、感情が読めない。


白「ん…そっか………分かった。話してくれてありがと。
いや、ほら、明日も撮影じゃん?その時に他のメンバーやスタッフさんにバレた時に七瀬が困るかなって。七瀬がソレに気づいてなかったらマズいかと思ってさ。」


西「………」

白「でも七瀬好きな人いたんだね〜知らなかったよー」ってベッドから降りるまいやん。


西「まいやん………まい、やん…」

出てきた声は、自分でも思ってた以上の頼りなさで

西「ななの事、幻滅した…やんな?」

語尾が震える…
涙声やってバレバレやんな…情けな…


白「幻滅なんてしてないよ」

西「じゃあなんで……何でななの目、見てくれんの?」


視界が滲む。
嫌や…まいやんに嫌われたら…立ち直られへん…


白「大丈夫だよ。私さ、ちょっと出掛けてくるね。明日もあるから七瀬は先に寝てな?」


そう言って部屋を出て行ったまいやん。
部屋を出る前ななに振り向いてくれたその顔は涙で滲んで見えなかった。
そうしてまいやんが部屋を出て行って
テレビから聞こえてくる呑気な芸人の漫才と笑い声だけが部屋に響く。


頭が痛い
もう何も考えたくない

ななの話を黙って聞いていてくれていたまいやんの顔が浮かぶ
ななの話、どう思ったやろ…


…怖い。
涙が止まらない。
ななの弱さが招いた事やけど…
あの時、何で流された?
後悔しかない…
軽蔑されたかもしれん
もう笑いかけてくれんかも…
嫌や…嫌…

もう頭ん中ぐちゃぐちゃや…
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ