妄想吐き溜め

□告白(3)
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高「おーい、なーちゃ〜ん」

西「あ、かずみん!」

楽屋へ入ると、おはよーってほわっと柔らかく笑うかずみんと挨拶を交わす。

高「ねぇねぇ、昨日のドラマ観た?」

西「それが昨日直前で寝てしもうてん…」

高「えー!!昨日凄い面白い回だったよ!真犯人が出てきてさぁ〜!」

西「え!?何それ先週のあの人犯人とちゃうの?」

高「それが違うんだよ〜!」

って、お互い同じドラマにハマってる事を知り、最近の楽屋ではもっぱらその話ばかりしている。


と、

白「おはよーーー」

楽屋に響いた声に自然と顔がそちらを向く

西(まいやん…)

すれ違うメンバーと挨拶を交わしていく。
ななが座る場所とは正反対の席に座るまいやん。

松「まいちゃーーーん!!今日も可愛いねw」

白「あ!さゆりちゃーーーーん!さゆりちゃんの方がも〜っと可愛いよw」

朝からさゆりんとのカップル芸を見せつけられて

西「っ…」
それを見るのも大概慣れたはずやのに容易く落ち込む。



高「なーちゃーん…」

かずみんに声をかけられ、
…ん、って曖昧な返事しか出来へん…

高「まいやんとさゆりんのカップル芸は挨拶みたいなものだから、ね?」

って
西「うん、ありがと、かずみん…」
気を使わせてゴメンって心の中で謝る。

高「うんうん、大丈夫だよ〜」

そう言いながら頭を優しく撫でてくれるかずみん。ななはそれに甘えてしまう。


「そろそろスタンバイの時間でーす」
と、スタッフの方が呼びに来てメンバーそれぞれスタジオへと向かう。
沈んでいた心が少しだけ浮上する。
何故かって、今日の収録のななの座席の隣はまいやんやったから。
普段こそあまり絡めんけど仕事の中では隣同士になる事が多い。
まいやんの隣におれるなら、ななは仕事だろうとなんだろうと嬉しい…
まいやんの隣に居れるってだけで、さっきまで沈んでいた気持ちが嘘のようにスタジオまでの道のりが軽くなる。


白「七瀬、おはよ。」

西「うん、おはよ…」

そんな交わす一言さえ嬉しい

まいやんは知らん。
なながまいやんへ向ける気持ちを…
収録中まいやんの手がななの肩に触れる度にドキドキしてる事も
耳元で話しかけられて心臓が止まりそうになってる事も
まいやんは知らん。

けど、そんな事口が裂けても言えん。
まいやんはななの事をただのメンバーとしてしか見てない事を知っとるから…


収録は予定通りの時間で終わり、スタッフさんとメンバーのお疲れ様でしたって挨拶がスタジオに響く。

西(終わってもうた…)

あっという間に終わった収録に再び寂しさが押し寄せてくる。


高「なーちゃん、戻ろっか」

西「…うん」


かずみんと楽屋に戻ってる途中

高「ね、なーちゃん、明日お休みだったよね?」

西「うん………?」

高「良かったら泊まりに来ない?なーちゃんが見逃したドラマも録画で残ってるし、一緒に観ようよ!」

なーちゃんの話しもゆっくり聞けるし

って、
かずみんには以前なながまいやんの事を好きだっていう事がバレてて、それ以来まいやんの話を聞いて貰ったり相談する事も度々あった
その度にかずみんはななを励ましてくれて

本当、かずみんに甘えてばっかやな…
だけどそれを突き放す強さをななは持ってなかった。

西「うん、有難うかずみん…お邪魔しよかな」



翌日、かずみんのお家にお邪魔して
ななが見逃したドラマを観たりゲームの話しをしたり、お家の中で過ごした。話は尽きなくてあっという間に夕方。
夕ご飯はかずみんが作ってくれたご飯を2人で仲良く食べた。
流石に食べるだけでは申し訳ないと思い食べ終わった食器を洗おうと思ったら、かずみんにいいよいいよ!って言われた。けどななもこればかりは引けん。
お互いの問答の末、2人で洗い場に立つことで終止符を打つ。


洗い物も終えてお風呂にも入り、あとは寝るだけって状態で再びリビングでくつろぐ。
かずみんは今流れてるドラマも毎週好んで見ているようでテレビに釘付け。
ななはかずみん家にある漫画を読んでいる。
読みながらも要所要所耳に入ってくるドラマの内容。
主人公の女の子が2人の男の子の間で揺れ動く。そんなような内容で、恋愛ものでありがちな男女のすれ違いや、そこからの逆転劇、そして新たなトラブルを匂わせて次回。
そんな内容やった。
見終わったかずみんが「来週の展開も気になるな〜」と言いながらテレビを消した。
時刻は23時過ぎ
明日は新曲のMV撮影で朝から1日収録やからそろそろ寝んといかん時間
なんやけど…

西「なんや、はっきりせーへん主人公やんな」

思わず口をついてしまった。

ドラマの中の主人公は幼馴染の男の子と一目惚れした男の子の間で揺れ動くストーリー
一目惚れした男の子と今回良い感じになったにも関わらず、幼馴染の男の子から突如告白されその幼馴染の事も意識してしまう。というような回だった。
それがななにはよく分からんかった。

西(好きな人と上手く行きそうやのに、別の男から告白されてそいつも意識するってなんやねん)

ななには好きな人と気持ちが通じ合う日が来るなんて事さえ、万に一つもないのに



たかがドラマなのに口をついて出てしまった


高「なーちゃんはまいやん一筋だもんねぇ」

あははって、笑ながら頭を撫でてくれる



泣きそう




高「ね、まいやんにさ、告白…しないの?」

突然のかずみんの言葉に

西「そんなん無理やろ…まいやんに嫌われとうない…」

告白しようなんてそんな事考えた事もない。
告白して振られて、距離を置かれたらそれこそななは立ち直れない

西「振られて距離を取られるくらいなら…今のままでええ」


ええ…けど…

それでもたまにどうしたってツラくなる時もあって
行き場のない想いばかり募って
それをぶつける場所もない
この感情さえ知らなければと思う時もあった
何でも良いから楽になりたい
そんな自暴自棄になる夜もあった



頭を撫でてくれていた手が止まる。


高「なーちゃん…」

西「………」




かずみんに抱き締められる。
高「なーちゃん」
再び名前を呼ばれ

高「なーちゃんの事が、好き」

理解をするまでどれくらい時間を要しただろう

高「なーちゃんがまいやんを好きな事、知ってるけど…支えようって思ったけど…そんなツライ想いしてるなーちゃんもう見てられない。」


かずみんから伝わる鼓動の速さに、その言葉は冗談なんかではないんだと、感じた。

西「…っ、…」

抱き締められてる腕が、強くなる


高「今はまいやんを好きなのは勿論分かってる…だけど…今はそれでも良いから、私の事、見て欲しい…なーちゃん、私と、付き合って欲しい」



そんなん言われるなんて…思ってなかった…


いつも優しいかずみん

頭を撫でてくれて

ななを励ましてくれて…



そんな気持ちを持っていたなんて気付かずに、与えられる優しさにただ甘えていたただけのなな…


西「ぁ………っ、…ご、ごめん…っ…か、かずみん……っなな、は……」

咄嗟に距離を取る
心臓がバクバクして…
動揺する鼓動は収まらないまま

西「ななは…まいやんが、好き………」



西「や…やから……っ…かずみんとは、付き合えん…」

気まずい沈黙が流れる。


視線も、合わせられん…



高「うん、知ってる…」
ごめん、こんな事、本当は言うつもりなかったんだけど…

って、また頭を撫でてくれた

西「っ…」
なおも鼓動はやまない
それどころか大きくなるばかりで
触れられるだけで緊張して身体も動かなくなる

なんやっ…これ…ありえん…
なんでなな、こんなドキドキしてんねん
西「………っ…ご、ごめん…かずみん…」

それしか、言えんくて…

頭を撫でてくれていた手はいつの間にかななの手を握っていて
高「うん…………でもさ、なーちゃんまいやんに告白しないままなんて…ツライだけでしょ?振り向いてくれない人より、私を選んで欲しい。」


「振り向いてくれない人」
なな自身も思っていたその言葉…ガツンと頭を撃たれて
何も言い返せなかった。

かずみんと目が合う。

高「今は、まいやんを好きなままで良い。忘れさせてみせる。絶対に寂しい思いもさせないし、大切にする」

西「ぁ………」


まいやんがななに振り向く事なんて、万に一つもない………それなら…今ななを思ってくれてるかずみんと一緒にいる方が…ええんやろか…
そんな事を思ってしまった。

西「か、かずみん…ななは…」

高「キス、していい?」

西「…ぇっ」

高「キスしたい。嫌なら逃げてくれていいから」

西「なん…」

かずみんの顔が近づく…
何も結論が出ないままかずみんとの距離がゼロになる。

西「っ…」
唇に柔らかい感触


かずみんとキスしてる
そう頭で理解してるのに逃げられない
逃げなきゃ、と思う自分と、
好きだと思いをぶつけてくれる人に目を向けた方が良いと思う自分が入り混じり、訳がわからなくなる


…なんで

まいやんを好きやのに…




この手を、突き放せない…


どれくらいそうしてたのか
やけど、ななの息が上手く出来んくてかずみんの胸を叩くとやっと離される距離。


肩で息を吸っていると、不意に後ろへ押されたような感覚。
天井が視界に映った事でななが床に押し倒されたのだと理解した

高「ごめん…なーちゃん…止まれそうにない」

西「ぇ…」

そう言われて再びキスをされて
肩に顔を埋められる

チリっと僅かな痛みが走ったと思えば
西「っ…!!!」
かずみんの右手がななのスウェットの中に伸びてくる
瞬間、何故かまいやんの顔が浮かんだ

なんで、いま…まいやんの顔が浮かぶんや…


「七瀬」って優しく笑いかけてくれるまいやんを、どうしたって忘れる事なんて出来ないんだと、涙が溢れてきた。

西「んっ、…っ…ぁっ……ま、…待って!かずみん嫌や!!嫌っ!!」


アカン!やっぱりこんなのアカン!!


必死で抵抗して、かずみんの手が止まる。

西「っは、……やっぱり、…ぁ…アカン、よ…かずみんゴメン………ななは、まいやんの事忘れるなんてきっと出来ん…」

そう言って
かずみんを見ると、かずみんも泣きそうな顔、してた。


西「………なな、帰るな」

その場には居れない。そう思い荷物を持って出て行こうとしたんやけど、止められた。

高「こんな時間になーちゃんを外になんか出せないよ。…もう終電もないし、泊まっていって。…その、信じて貰えないかもしれないけど…もうなーちゃんに何もしないから…お願い…」

ごめん、なーちゃん…

そう深々と頭を下げられて。



西「…うん、ななも、ゴメン…」

かずみんを責める事なんて出来なかった

かずみんはななにベッドを譲ってくれた
私は床で寝るから、って…ななが床に寝るからいいって言ったんやけどそれは丁重にお断りされた。


結局その夜はろくに眠れず朝を迎えてしまった




朝になって2人それぞれ今日の移動の準備をして、時間までまだ少し余裕があってんけど一足先にななはかずみんの家から出てきた。



今日はMV撮影のお仕事やのに…こんな気分で迎えるなんて思わなかった
朝日が眩しい…
重い足取りのまま、ななは集合場所まで向かった

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