妄想吐き溜め

□告白
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宿泊先のホテル。
部屋割りが珍しく七瀬と一緒になった。


部屋に着くと七瀬はまだのようで
荷物を窓際の机に置いてベッドに寝転がる
(疲れた…)
今日は朝から1日新曲のMV撮影だった。ベッドに横になると一気に身体に疲労感が襲ってきて
(ぁ…寝る前にメイク落とさなきゃ…)
睡魔に抗わず眠りについてしまいたい誘惑と、メイクを落とさないまま寝てしまった次の日の苦労を天秤にかける。
大きな溜め息と共に起こしたくない身体を無理矢理起こし、カバンから荷物を取り出してバスルームへ向かう。
熱いシャワーを浴びれば汗と一緒に眠気も一緒に流されていくような、先程まで感じていた疲労感も少し和らいだ。
今日のダンスの振りを頭の中で整理して

(寝る前にもう一回振りの確認しておこうかな…)


頭を拭きバスルームから出るといつの間にやら七瀬が帰ってきていた。
テレビを付けながら目線は手元のゲームに。

白「七瀬お帰り」

西「んー…」

(あ、…これは話聞こえてないね)

ゲームに夢中で心ここに在らずというような気の抜けた返事。長年一緒にいて七瀬のこういう時は何を言っても無駄だと熟知している。
特に気にもとめず私は私で眠りにつく前に、明日の朝使う化粧品一式をドレッサーの上に準備しておく。何気なく視線に入った鏡、その鏡越しに七瀬と視線が合った。


白「?…七瀬もお風呂入ってくれば?」
西「…うん、せやな。」

そうする。そう言ってベッドから降りてカバンを漁る七瀬

西「…まいやん」

白「ん?」

七瀬の方へ振り返ると、

西「ごめんやけど、シャンプーとか忘れちゃったみたいやねん。借りていい?」

と、困り顔。

白「うん、いいよ。バスルームにあるから好きに使いな」

ありがと、とお礼の言葉を口にしてバスルームへ向かっていく七瀬。…何かその足がフラついた足取りで少し心配になる。

白(お風呂場で寝なきゃいいけど…)

私は後は寝るだけになって、ベッドの上でストレッチと頭の中で整理しながら振りの確認。

つけっぱなしのテレビはきっとお風呂上がりに七瀬が観るだろうと思いそのままにしておく。


暫くして七瀬もお風呂から上がってくる。

西「まいやん、借りたで。ありがと」

そう言って七瀬はもう片方のベッドの方へ足を進め、ダイブ。その髪はまだ濡れていて

白「いやいや七瀬、髪乾かしてから横になりなよ。」

西「ん〜…ぅん…」

白「そのまま寝ちゃうと明日の朝髪の毛が凄いことになっちゃうよー?」

ベッドから降りて七瀬の背中を揺する。
綺麗な七瀬の黒髪。乾かさないで寝ちゃったら髪にも良くないでしょ…って頭の中で思うけど、肝心の本人はまったく動く気がなさそうで

白「ほら、七瀬ぇ〜髪乾かしてから寝よ」

って七瀬の腕を引っ張る

無理矢理七瀬を起こすけどそこから動く気配がない。


白「………」

はぁ…

ドライヤーを持ってきて、七瀬の後ろに膝立ちになりドライヤーの電源をオンにすれば暖かい風と共に七瀬の髪から私と同じ香りが漂ってくる。

白(七瀬の髪サラサラ…綺麗な黒髪)

髪を乾かし終えてドライヤーのコードを纏めながらふと目に入った鎖骨ライン。そこには何処かでぶつけたような内出血痕が…


白「七瀬、ここ虫刺され?」

西「んー?何?」

って呑気な声が聞こえる。

白「ほらここ。」

って、そこを指差す。

西「………」



沈黙。
テレビの音だけがやけに大きく聞こえて、ああ、そういえばテレビつけたままだった…って、何かこの場の空気にまったくそぐわない事が頭を横切った自分に、少し笑えた。



白「…七瀬?」

西「………」




尚も押し黙ったままの七瀬に

白「何処かでぶつけた?」

西「っ………せ、せやねん。」


やっと絞り出した声はなんとも、か細いもので明らかに嘘をついてると分かる



七瀬、嘘つけないもんね

やっとの事絞り出した七瀬の言葉に私は追い討ちをかける


七瀬ゴメンね?

白「それにしては珍しい所だよね。何処でぶつけたのかな?」

西「………」

白「…七瀬?」

明らかに焦ってる
というか泣きそう。

白「コレ、ぶつけたんじゃないんでしょ?」

早々に確信をつく
ゴメンね七瀬、コレが何なのか…初めから気付いてたよ



西「………」


白「七瀬…」

西「…っ…な…なんで…」



分かったん?

って、七瀬の心の声が聞こえた。


白「分かるよ。…七瀬、彼氏居るの?」

西「おっおらへん!!」

七瀬が振り向き私の左腕を掴む。

白「じゃあ、何で?」

彼氏でもなければ誰がこんな痕付けるのよ…
七瀬の怯えた目。
掴まれてる左腕から伝わる七瀬の震え

白「…」

西「…っ」


白「誰に、付けられたの?」


どういう状況で?という最後の言葉は伏せた。


未だ何も明確な事を口にしない七瀬。
沸々と湧き出てくる感情…
抑えていないと私が私でなくなりそうな
私に七瀬を縛る権利なんて、ないのに…

…フゥ、


ひと呼吸ついて


白「七瀬」

極力優しい声音で名前を呼べば
やっとこっちを見てくれた。


西「…ま…まいやん…」

絞り出た七瀬の声はまるで縋るような声音で
白「ん?」

西「…っ………き、……きらいに…ならんといて……」


白「………」


私ね、七瀬の事、好きだよ。
嫌いになるわけないじゃん。


白「うん、…大丈夫。話してごらん。」
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