妄想吐き溜め

□不眠症
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もう何度目かも分からない寝返りをうって閉じていた瞼を開く

寝られへん…

身体は連日の仕事で確かに疲れているはずやのに、意識はまるで別物みたいにハッキリしてる。
視線だけを窓の外に移してみたんやけど、夜明けまでまだまだ先だというような真っ暗闇が広がるばかりで



西(明日も朝から仕事やのになぁ…)

…て、…あぁ、とっくに日も跨いだんやから明日やなくて今日やんな…

なんてどうでもいい事が頭を横切る
静か過ぎる部屋の中で時計の針の音だけがやけに響いて、眠る事の出来ない頭ではその音が煩わしく感じる。
布団を頭までかぶり無理矢理瞼を閉じた。

結局今日もたいして眠れないまま朝を迎えて、そのまま迎えのバスに乗り込んだななは、移動中の間少しでも身体が休まるよう瞼を閉じた

収録現場に着き、バスから降りようとした足元が少しフラつく


…あ、


クラリと軽い眩暈がしたかと思えば、後ろから柔らかい衝撃に支えられて


白「っと、…七瀬、大丈夫?」

西「まいやん…」

具合悪いの?って心配そうな声音で聞かれたんやけど、まいやんに心配も、ましてや他のメンバーに迷惑もかけたくなくて、平気やで、少し疲れてるだけやから、って笑い返す。
やけど怪訝な顔で眉間に皺を寄せてまだ納得のいかないって雰囲気のまいやん。それ以上突っ込まれる前に、ありがとな、って声を掛けて早々にその場を後にした。

午前中の収録を無事に終えて、午後はダンスレッスンやった。
ななの自己管理が出来てへんのが悪いと分かってはいるんやけど、寝不足が続いていた身体には最悪やった。

身体も重いし何や集中も出来なくて…息も切れ切れ




最悪や…

そんな自己嫌悪に陥ろうが休むワケにもいかんから、最悪のコンディションやろうが何やろうと、それでも何とか必死にメンバーについていく



「それじゃ、10分休憩入れよう」

その言葉に心底ほっとした瞬間、視界がグラリと回って平衡感覚もなくなりその場から崩れ落ちてしまった。

西「…はっ、……っ、…はぁっ、…はっ、…」

浅い呼吸しか出来へんくて…苦し…
身体も思うように動かれへん…

「えっ!?なーちゃん!?」

「ちょっ!大丈夫!?」

焦ったメンバーがななを取り囲む

西「…っ、……ごめっ……少、し……っ…」

少し休めば平気やから…そう伝えたいのに
後ろから誰かに身体を支えられながらも、呼吸が乱れて上手く言葉が出てこない

白「七瀬、これ羽織ってて」

目の前にしゃがみ込んだまいやんが、着ていたパーカーを脱いでななの肩に掛けてくれた。
そうして香る甘い匂いと共に、今度は身体が宙に浮く感覚がして



白「一旦医務室行こう。…玲香、後で連絡入れるから」

至近距離に映ったまいやんの顔に、なながまいやんに抱き抱えられてるのだと理解した。

玲「ん、分かった。」



なーちゃん宜しくね。そんな話が聞こえていたのも分かってたんやけど、思うように動かない身体に流石にもう限界やったんやと、揺れる振動とまいやんの温もりに自然と瞼が重くなって、ななはそのまま意識を手放した。


西「…ん、」

次に目が覚めると暗闇の中で目に入ってきた見覚えのある天井。
暫くの間ぼーっとそれを眺めていると扉の開く音がしたから視線をそちらに移す

白「あ、七瀬…起きたんだね」

西「…まいやん?…」

白「寝不足からくる貧血だって。玲香には今日は帰らせるって連絡したから」

医務室に運ばれた後、ななは目を覚ます事もなくずっと眠ってたみたいで、まいやんがマネージャーと一緒にななを自宅まで送ってくれたらしい。ななの体調を見る為、マネージャーは帰らせてまいやんがななの家に残ってくれたんやと教えてくれた。

白「勝手にお邪魔して悪いとは思ったんだけどね…流石に心配だし…」

西「…有難う、…迷惑かけたやんな…ごめん…」


白「………」

ななが寝てるベッドの横に腰を下ろすまいやん

白「別に迷惑かけられたなんて思ってない」

その言葉と共に頭を撫でられる
その手は優しいんやけど
顔には眉間に皺が寄っていて

まいやん…怒ってる?

お互いの視線が交差したまま
頭を撫でてた手が頬に移る

白「心配…したんだからね?」

眉間の皺が深くなる

西「…心配かけて…ごめん、なさい…」

その顔を見たら、ぎゅうって胸が苦しくなって
素直に口から出てきた言葉に、まいやんの眉間のシワも薄くなって

白「そんな顔されたら…何も言えないんだけど」

眉毛を下げて微笑むまいやん。


西「…最近、な…分からんけど寝られん日が続いててん…あまり食欲も湧かんくて…」

白「…何か悩みでもあるの?」

私で良かったら聞くよ?って優しく言ってくれるんやけど

西「分からんねん…」

漠然とした不安はいつも抱えてるけど、それが要因なのか…ななにもよう分からんくて…

西「でも…何や、今は久し振りに眠れた気がする」

白「そっか……」

そうして微笑むまいやんの顔があまりにも優しくて…それを見てると
何でこんなにも胸が苦しくなるんやろ

その理由が、ななにはまだよく分からへん…




白「何か食べたいものとかある?」

西「……あまり食べる気せーへん…」

首を横に振りながらそう言えば、食べなきゃ駄目、そんなんじゃまた倒れちゃう…って優しい声音で怒られた。


白「それじゃあ、七瀬が食べられそうなもの作るからそれまでもう少し横になってて?」

再び頭を撫でられて掛け布団を首までかけ直してくれる。

何やまいやん、お母さんみたいやな…

なんてそんな事を思っていると離れていく温もりに無性に恋しくなった

やけどそんな事まいやんに言える訳もなくて、その姿を目線だけで追いかける
寝室から出て扉を閉めようとするまいやん

その姿に

西「まいやん」

白「…ん?」

西「………扉…閉めんと……開けといて…」


寂しい…



白「…ふふ、…うん。ご飯出来たら呼びにくるから、待ってて」

キッチン借りるね。って、扉は開けたまま
微笑むまいやんの後ろ姿を今度こそ見送った


さっきまでの心地良さが恋しくて
なかなか寝付けんくて寝返りを何度かうっているとパサリと何かが落ちる音

西「?」

何の音やろ?そう思いベッドの下を見ると
ななが倒れた時にまいやんが肩に掛けてくれたと思われるグレーのパーカーが落ちていた。

それを拾い上げる

西「…」

まいやんが出て行った寝室の入り口を見つめて、しばしの間思案…


まいやん、まだこーへんよな…


少し、迷ったんやけど…
そっとそれを抱き締めながら布団をかぶる


ええ匂い…

もう少しだけ…


まいやんが呼びにくるまでの僅かな時間、このままでいたくて目を閉じた






白「七瀬、………七瀬、…」

不意に優しく肩を叩かれて、意識が浮上する

西「…んぅ……まいやん…?」

いつの間にか眠ってたみたいで、起き抜けのぼーっとした頭でまいやんの名前を呼ぶ

白「温かいうどん作ってみたんだけど…七瀬、食べられそうかな?」

西「…うん」

目を擦りながら上半身を起こして、リビングに向かう。

椅子に座って机に用意された器から香ってくる匂いに食欲が湧いてくる。

西「ええ匂い…頂きます」

白「ふふ、どーぞ。召し上がれ」

一口すすると口に広がる優しい味に

西「…美味しい…」

思わず口元も緩んで

白「本当?良かった」

視線を上げれば嬉しそうに微笑むまいやん。
残さず食べて久し振りにお腹一杯な幸福感に包まれる。


やけど洗い物を終えたまいやんから

白「それじゃ、七瀬もご飯食べれた事だしそろそろ帰ろうかな。七瀬、戸締りした後も今日はゆっくり寝てるんだよ?」

って

その言葉に再び顔を覗かせる寂しさ


まいやん帰っちゃうんや…


……嫌やな…




白「それじゃ七瀬、戸締りだけお願いね」

ゆっくり休んでねって、帰り仕度をしてバックを肩に掛けるまいやん。

西「…っ、」


嫌や…



嫌…


西「っ、…」


寂しい

帰らんといて…



玄関に向かうまいやんの後ろ姿を見た瞬間


西「……ぃゃ、や…」

白「…?……七瀬?」


咄嗟にまいやんの服の裾を掴む。



西「嫌や……っ、まいやん行かんとって…っ」







ななを1人にせんといて……


まいやんの顔を見るのが怖くて
視線が上げられへん…
無言のままのまいやん。

掴んだ右手が、震える



白「………」






白「…やめて」



静かな部屋に、ピシャリと言い切るようなまいやんの言葉だけがはっきりと聞こえた

西「っ、…」

その言葉に一気に視界が滲む







白「…やめてよ…」




白「そんな言葉聞いたら…帰れない…」

まいやんの服を掴んでいたななの手に、上からそっと添えられるまいやんの手


白「勘違い…しそうになる…」



視線を恐る恐る上げると、眉毛を下げて複雑そうなまいやんの顔

西「…?」


まいやんの言わんとする事がななにはイマイチ分からんくて、視線は見つめ合ったまま




白「…無意識でそれなの?……ズルい…」

ななの肩に頭を預けるまいやん





暫くその状態でおったら


白「 」

西「…ぇ…?……何、…まいやん…」


あまりにも囁くような声で何かを口にしたまいやん。やけどななにはそれが聞き取れんかった。
聞き返したんやけど無言のまま答えてくれない

ななの肩にまいやんの吐息を感じて
肩から離されたまいやんの顔がななの目の前で再び合わさる
至近距離で交わる視線





西「まいやん…?」



白「…うん………今日は、七瀬の家に泊まっていくから…」

その言葉と共にまいやんに抱き締められる



まいやんの言葉に、その温もりに、
これ以上の安心感なんてないような安らぎを感じた。




ななの我が儘を聞いてくれたまいやんに
何や急に恥ずかしくなる。
せやけどまいやんのその優しさが嬉しくて


西「ぇへへ…」

照れ笑い




ななもこの温もりを離したくなくて、まいやんの背中にななも腕を回して、ぎゅうってまいやんを抱き締めた。















白(…好きになった私の方が負けって、事ね…)

七瀬の肩に頭を預けて思わず漏れてしまった本音。
七瀬は聞き返してきたけど、聞こえないように囁いた本音だから


七瀬には、教えてあげないよ

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