或る夜


□第一章 帰還
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「ん…。」

午前4時。屯所に与えられた自室の布団の中で、
千田 夢は遠くから微かに聞こえる人の声に目を覚ました。

出迎えなくては。今日は土方さんが十番隊から十数名を率いて、
天人によるヤク密輸の現場に乗り込むと聞いていた。
恐らく捕縛が終わり、皆が帰ってきたのであろう。
玄関の方角から複数人の音量を抑えた会話と気配がする。

皆は、土方さんは、無事だろうか。

遡る事3ヶ月前にやっとの思いで恋人同士になることができた
愛しい人。死と隣り合わせの毎日に身を置くあの人の無事を、
こうして出迎えの度に祈っている。

夢は襦袢を整えると玄関へ向かった。


・・・


「原田ァ…」

意識のないものと思っていた人物からの呼びかけに原田は驚いた。

「副長!」
「アイツを…部屋に……ッ…入れるな…」

切れ切れに呟いた彼を脇から支え直し、全て察したと頷く。

「はい。…おい、誰か副長を運ぶのを代わってくれ!
 副長は時間を置いて最後に運び入れろ。」

その言葉を聴き、土方の意識は再び闇に沈んでいった。


・・・


「おかえりなさい!皆さんご無事ですか?」

玄関へ着いた頃には隊士たちがぞろぞろと上がり始めていた。

「おう、出迎えご苦労さん。怪我人はいないぜ〜、副長を含めてな。」

奥から原田さんが現れて、私に向かって片手を挙げる。

「原田さん!良かった。おかえりなさい。」

私は見慣れた笑顔にほっと胸を撫で下ろした。

「でもあと一歩のところで敵をとり逃してなァ。副長が荒れてんだ。」

「えっ、土方さんが?」

「だから、今日一晩…いや、昼くらいには戻ると思うからよ、
 それまでそっとしておいてやってくれねェか?」

「そ…」

「男は格好つける生き物だからよ、惚れた女にゃあ無様な姿見せたくねぇんだよ。
 わかってやってくれ。ほら、部屋まで送るから。」

あの冷静な土方さんが、…荒れる?
普段のイメージと結びつかない原田さんの言葉に引っかかりながらも、
肩に手を置き促されては大人しく従うしかない。
土方さんの無事を直接確認できないまま、私は自室に戻った。


・・・

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