短編&中編

□Schwarzwalder Kirschtorte
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 訓練兵団の兵舎に戻ったミカサは、エレンとアルミンに早速プレゼントを渡そうと二人を探し回る。しかし、二人の姿は見つからずそうこうしている内に夕食の時間となった。
 食堂に行けば二人に会えるかもと思ったが、やはり居ない。まだ男子寮の中なのだろうか、袋を下げながらミカサは食堂の外に出て空を見上げる。
 触れるのは、あの日エレンが巻いてくれた大切なマフラー。撫でるように触ると、あの時の温かい優しさがミカサの心を覆う。同時に、今そばにエレンが居ないということに寂しさを感じた。

「あ、いた! ミカサ!!」

「!?」

 一人ぼーっと突っ立っていたミカサに声をかけたのは、幼馴染のアルミン。もしかしたらエレンもいるかもしれない。そう思ってアルミンの方を見てみるも、隣にエレンはいなかった。

「ようやく見つけたよ……」

 随分とミカサを探していたのだろう。腰を曲げ膝に手をつき、肩で大きく呼吸をしている。エレンよりも、そんなアルミンの様子の方が気になった。

「アルミン、どうしたの?」

「ちょっと一緒に来てくれ!」

「え?」

 顔を上げたアルミンは、ミカサの手を取り再び走り出す。あんなに息が切れていたのに、また走っても大丈夫なのだろうか。そんな心配をしながら、ミカサはただアルミンについて行った。
 そして辿り着いたのは兵舎の中に設置されてある談話室。

「エレン、入るよ!」

 扉をノックしアルミンが声を掛けると、扉の奥から『おう!』とエレンの返事がくる。
 ずっと探していたエレンがこの中にいる。今から会うのだと思うと、紙袋を持つミカサの手に自然と力が入った。

「さ、ミカサ、扉を開けて」

「……え、私が開けるの?」

「うん!」

 アルミンの考えが読めず、ミカサは困惑しながらも取っ手を握り扉を開いた。
 扉を開けた先には、いつも食堂で食べている夕飯が机に並べられていた。その中央には、蝋燭が立てられたチョコレートケーキ。そして、部屋の奥には恥ずかしげにほんのりと頬を赤く染めたエレンが立っていた。

「……エレン? それに、これは一体……」

「僕とエレンと二人で準備したんだ」

 ミカサに続いて談話室に入ったアルミンが、再びミカサの手を引いて椅子に座らせる。
 ミカサは未だに状況が理解できず、ただただ目の前で揺れる蝋燭の火を眺めている。これは、どう考えても誕生日会としか思えない。


 でも、もう私の誕生日は過ぎた。
 それに、エレンは私の誕生日を覚えていなかったはずだ。


「……ミカサ、驚いた?」

「うん。すごく……」

「エレン、姉さんに昨日すっごく怒られたんだよ。『ミカサの誕生日を忘れるなんて信じられない』って」

「姉さんが……?」

 昨日、とはどういうことなのだろうか。二人はエミリと会っていたのか。そういえば、昨日は訓練が終わった後、二人の姿は無かった。
 さっきまで一緒にいたエミリの姿を思い浮かべる。

「その、実はね……僕ら、昨日姉さんと会ってたんだ。なかなかエレンがミカサの誕生日だっていうことを思い出さなくて、流石に何とかしたいなって。だから、手紙を出して姉さんに相談してみたんだ」

 アルミンの言葉に、ミカサはようやく理解した。
 エミリはミカサとただお菓子作りがしたかっただけではない。エレンとアルミンに誕生日会の準備をさせるために街へ連れ出したのだ。
 そうすることで、ミカサはエミリとバレンタインチョコを作ることができるし、エレンとアルミンも安心してミカサの誕生日会の用意ができる。
 ついでにエミリも可愛い妹と過ごすことができるというわけだ。

(姉さん、そこまで考えて……)

 姉の優しさに、やっぱり自分はエミリが大好きなのだと再確認する。
 心の中で、遠く離れた場所にいる姉に感謝を述べ、視線をエレンの方へ向けた。

「……悪かったな」

「え」

「誕生日、忘れてて……」

 目を逸らしながらも、少しだけ眉を下げて謝るエレン。そんなエレンに、ミカサはゆっくりと首を振って口を開いた。

「気にしないで」

 確かに寂しかった。エレンに誕生日を忘れられていたなんて、と。だけど、こんなサプライズプレゼントを贈られたらそんな気持ちなんて一瞬で消えてしまった。

「エレン、アルミン、ありがとう」

 エレンと家族になれて良かった。
 エミリが姉で良かった。
 アルミンが親友で良かった。

 三人と出会えて、本当に良かった。

 両親を目の前で失った時、この手で人を殺めた時、大きな絶望と喪失を感じた。恐ろしく冷たい残酷な世界で孤独を感じた。自分がとても不幸な人間だと思った。
 だけど、そうじゃなかった。たくさんの大切なものを失ってきたけど、その度に涙を流してきたけど……。
 エレン達が隣に居てくれるとそう思うだけで、この世界が優しく温かい美しいものだと感じられた。


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