短編&中編

□仲良し姉妹
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 14日、とうとうバレンタイン当日となった。
 訓練を終えたミカサは、私服に着替えてからエミリとの待ち合わせ場所であるパン屋へ急ぐ。待ちに待ったこの日、昨日はなかなか寝付けなかった。きっとエレンが聞いたら呆れるだろう。
 早くエミリに会いたくて、自然と速く動いていた足。駆け足でパン屋へ向かうと既にエミリが店の前に立って待っていた。

「あ……姉さん!」

 少し距離があるため声を上げて呼べば、それに気づいたエミリがミカサの方へ視線を移す。ミカサを瞳に映すとニコリと微笑み手を振ってくれた。

「ミカサ〜久しぶり! 会わない間にまた一段と綺麗になったね!!」

 ミカサがエミリの元へ駆け寄るなり、頭を撫でては褒めちぎる。それは決してお世辞ではなく、心から妹を可愛がるエミリの本心だ。

「ミカサは大きくなったら絶対キレイになるって、私は思ってたよ〜」

 エミリの褒め言葉にミカサはほんのりと頬を赤く染める。
 普段、あまり他人から言葉をかけられてもミカサにとってはどうでもいいし興味もない。だけど、それがエレンやエミリだったら話が変わってくる。

「あ、ありがとう……」

「ふふ、じゃあ一緒にチョコ作ろっか!」

 ミカサの手を引いて、エミリはパン屋へ入店する。
 ちなみに何故パン屋なのかと言うと、このパン屋はエミリの行きつけのお店で、バレンタイン用のチョコを作るならと店のおばさんが貸してくれた。常連客であるエミリにほんのお礼とのことだ。
 何より、エミリ自身も助かった。いくら妹とは言え、まだ訓練兵であるミカサを調査兵団本部に入れるわけには行かない。見学、という理由であればまだしもお菓子作りとなると流石に許可も貰えないからだ。パン屋のおばさんに感謝である。

「実は、私もう先に作り始めてたの。なんせ渡す人が多くてね」

 エミリに続いて厨房へ入ると、そこは甘い香りが広がっていた。大量のチョコと調理道具、そして色んな模様のラッピング用紙とリボン。この厨房だけで既にバレンタイン一色だ。

「…………」

 そこでミカサは疑問に思う。

 いま、姉さんは何と言った?
 渡す人が多い?

 途端、難しい表情を浮かべるミカサは入口に突っ立ったまま動かない。そんな妹の様子に気づいたエミリがミカサに声を掛ける。

「ミカサ、どうしたの?」

「…………姉さん、バレンタインって好きな人にチョコをあげるんでしょう?」

「そうだけど……」

「姉さんは、こんなにも好きな人がいるの?」

 目を細めるミカサの視線の先は、もう完成されてある大量のチョコたち。きっと調査兵団の仲間に渡すものなのだろう。
 いつもエミリの隣に居る、顔も分からない彼女の仲間達。毎日一緒に居られるだけでも幸せなのに、なんて贅沢な。ミカサはどす黒いオーラを纏う。

「ああ、このチョコ? これはね、調査兵団の仲間に作ったものなの」

 ……やっぱり。

「でも、ほとんど義理だよ?」

「……義理?」

「そう、今はね、好きな人だけじゃなくて、お世話になっている人達にもチョコを渡すっていうのも流行っているのよ」

 エミリの世間話にミカサの黒いオーラが少しずつ無くなっていく。

「……そんなの、初めて知った」

「ミカサはそういった世間の流行りには疎いものね。エレンに夢中だからそんな暇ない?」

「そ、それは……!!」

 楽しそうにお喋りをするエミリ。そんな姉の言葉にミカサはついさっきの様子と一変してボンと顔を真っ赤に染め上げる。

「ミカサ、もしかして私がチョコあげる人達のこと考えてヤキモチ焼いてくれたの? なんだか嬉しいな〜」

 割とエミリは弟のエレンと違って鋭いところがある。勿論、疎いところもあるが、何故今回はこんなにも勘が良いのか……。
 それはきっと、彼女がミカサのお姉ちゃんだから。妹のミカサをちゃんと理解しているからだろう。


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