短編&中編
□温かい気づかい
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エミリに手紙を出してすぐに、ミカサの元へ返事の便りが届いた。教官からそれを受け取ったミカサは、早速部屋に戻って手紙に目を通す。
『ミカサへ
マグカップ、気に入ってくれたみたいで良かった!
私もたくさん悩んだ甲斐があったよ!!
それでね、ミカサがよければなんだけど、14日の水曜日にでも二人でお出かけしない?
実は、丁度バレンタインだからチョコレートのお菓子を作ろうと思ってて、一緒にどうかな?
私も久しぶりにミカサとお料理したいし!
もしその日の予定が空いていたら、トロスト区のいつものパン屋さんに来てね。そこで待ってるから。時間はミカサに任せるよ!
エミリより』
手紙を読み終えたミカサは、すぐにスケジュール帳を確認する。14日は2時頃まで訓練で、その後は時間が空いている。急いでパン屋に向かえば、お菓子を作る時間は十分にあるだろう。
そのままエミリに返事を書くために、引き出しから封筒と便箋を取り出す。
(姉さんとお出かけ……お菓子作り……!)
すごく楽しみだ。思えばウォール・マリアが破壊されてから、二人で出かけたことも無かった。勿論、並んで調理台に立つことだって無かった。
久しぶりの姉妹の時間。思い浮かべるだけで、心が温かくなる。
「バレンタイン、か……」
バレンタインにお菓子を作るのは、両親を失ってから初めてかもしれない。
イェーガー家に引き取られたのは、自分の誕生日もバレンタインも過ぎた後だった。
次の年のバレンタインは、エレンと共に例のガキ大将三人組を懲らしめ街で暴れている内に、他の人や店を巻き込み迷惑を掛けてしまったことで大騒ぎとなり、イベントどころじゃなくなった。
あの時、カルラと訓練兵団から一時帰宅していたエミリに散々説教を食らった。それも今となっては大切な良い思い出だ。
「できた」
筆を置き、便箋を丁寧に折り畳んで封筒に入れる。最後に宛先を記入して、ミカサは席を立った。
ポストまでの道を歩きながら、ミカサの脳裏に浮かんでいるのは14日のこと。
エミリとどんな話をしよう。
お菓子は何を作ろう。
どんな味のお菓子にしよう。
エレンとアルミンにバレンタインのチョコをプレゼントしなくては。勿論、エミリにも。
この残酷な世界とは正反対の、とても穏やかで平和な出来事。それを考えていると、自然とミカサの頬も緩んでいた。
「早く、14日にならないかな……」
そして、早くエミリと会いたい。
話したいことがたくさんある。
教えて欲しいこともいっぱいある。
自分を本当の妹だと可愛がってくれる優しいお姉ちゃん。ミカサには”きょうだい”が居なかったから、エミリの存在はミカサにとって新しい世界そのものだった。エレンとはまた違う、大切な存在。
エレンはミカサに生き方を教えてくれたヒト。両親を失ったあの日、あの恐ろしい悪夢から助けてくれたヒト。
なら、エミリは、温もりを思い出させてくれたヒト。たくさんの優しい愛情を注いでくれたヒト。
両親とカルラを失ったいま、ミカサにとってエミリは、姉であると同時に母親代わりでもあった。
兵士を志願する前、エミリと手を繋いで一緒に街に出かけた時のことを思い出しながら、赤いポストに手紙を投函した。