短編&中編

□今日の天気は曇のち嵐
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 ミカサの誕生日当日。三人は予定していた通り街へ出掛けた。丸一日訓練がないのも久しぶりで、今日は存分に羽を伸ばそうということで、まずは行きつけの店で昼食だ。
 鳴りそうな腹の虫を抑えながら、メニュー表に書かれてある文字を目で追う。

「何食う? 俺は」

「チーハンでしょ? エレンはいつもそれだよね」

 目を輝かせるエレンを見れば、すぐに何を頼もうとしているのかわかる。チーハンが絡んでいる時は大抵緩んだ表情を見せるエレンの癖は小さい頃から変わらない。

「でも、たまにはこうして奮発するのもいいよな!」

「う、うん。まあね……! えっと、ミカサは何が食べたい?」

 エレンの隣にちょこんと静かに座っているミカサへ視線を移す。ミカサはいつもと変わらない無表情で、

「私はシチューで良い」

淡々とメニューを口にした。そんな彼女が纏う空気は心做しかいつもより暗い。
 その理由は、まだエレンがミカサに『誕生日おめでとう』を言っていないからである。そう、エレンはまだ今日がミカサの誕生日であることに気づいていないのだ。なんということだろう。

「なんだよミカサ。せっかく奮発して食おうってんだから、シチューじゃなくてもっと別のもん頼めよ」

「わかった、そうする。じゃあ、このグラタン」

 ミカサが注文したのは、チーズのたっぷり入ったグラタン。
 チーズもウォール・マリアの壁が破壊されてからは、肉ほどではないが貴重な食べ物となった。グラタンも簡単に食べられるようなものではないのである。

「ご飯食べたらどこに行く?」

 店員に注文を終え、食事が来るまでの間に次の予定を決めるため、アルミンが二人に質問する。

「俺、遠くからでいいから調査兵団の本部が見てぇ!!」

「別にいいけど、本部なんて見に行ってどうするの?」

「エルヴィン団長とかリヴァイ兵長とか、見れるかもしれないだろ!!」

「そんな都合よく現れるかな……?」

 エレンにとって憧れの存在である調査兵団。幼い頃からいつも、シガンシナから壁外調査へ出る度に門まで駆けつけていた。

「行こうぜ!!」

「うん、いいよ。ミカサもそれでいい?」

「……大丈夫」

 二人から許可を貰ったエレンは、よし! と拳を作って笑顔を見せる。そんな彼の隣で黙々とグラタンを食べるミカサ。アルミンは溜息を吐いた。
 昼食を終えた三人は、早速エレンの希望である調査兵団本部へ向かう。ミカサの誕生日だというのに、本人よりもエレンの方が楽しそうだ。

(何とかして、エレンにミカサの誕生日だってことを教えられないかな……?)

 エレンの少し斜め後ろで歩くミカサの後ろ姿を見つめながら、アルミンは頭を働かせる。そこで思い浮かんだある人物に、ぽんと手を叩いた。

(そうだ! 僕らには姉さんがいるじゃないか!!)

 いつもアルミンにも本当の弟のように接してくれた、エレンの姉であるエミリの姿を脳裏に浮かべる。彼女に頼めば解決策が見つかるかもしれない。

(これから調査兵団の本部へ行くところだし、丁度いいや!)

 近くにいる兵士に頼んで、エミリを呼んでもらおう。それからエミリも誘い四人で出掛けて、その間にこっそり相談してみよう。

「お、着いたぞ!」

 アルミンが頭の中で段取りを考えている内に、いつの間にか兵団本部へ到着していた。

「これが調査兵団の本部か!!」

 ちなみに、こうして本部をちゃんと見たのはこれが初めてである。同じウォールローゼの中にいても、訓練が大変で街へ出掛ける機会もあまりない。精々、食事の買い出しで街に訪れるくらいだ。
 さて、はしゃぐエレンは放っておくとして、どうやってエミリを呼び出そうか考える。門の近くに兵士は見当たらないため、これでは話を通すことすらできない。
 腕組をしてアルミンが考え込んでいると、エレンが『おい、あれ!』と言って本部の門へ指をさす。それに釣られたアルミンもそちらへ視線を寄越すと、なんとタイミングが良いのだろうか。エミリが門から姿を現した。

「姉さん……!」

 エレン達が普段、訓練で着用している制服と同じデザインのものを着用したエミリが楽しそうに歩いている。かなり機嫌が良いようだが、どこかに出掛けるのだろうか。

「ね、ねぇ! せっかくだし、姉さんも誘ってみようよ!!」

「えぇー、姉さんも……」

 アルミンの提案にエレンが顔を歪める。エミリに会えば、必ずいつもの”甘やかし”が来るから。年頃のエレンにとっては、やめてほしいし子供扱いされているようで嫌なわけである。

「でも、私も久しぶりに姉さんとお出掛けしたい」

 そこでミカサがアルミンの提案に一票。多数決では2対1。それに今日はミカサの誕生日なのだから、彼女の意見を通すのが筋というもの。エレンは未だに気づいていないが……。

「2対1だよ、エレン」

「……わかったよ」

 面倒臭そうな顔で渋々同意したエレンだが、表に出さないだけで彼自身も内心嬉しいはずだ。
 壁外調査から無事に帰ってくる度に送られる、エミリからの手紙に目を通す時、いつも心から安心した表情を見せる。
 何だかんだ言って、エレンも姉のことが大好きなのだ。

「じゃあ、早速姉さんを」

「待って」

 『呼びに行こう』と言おうとしたアルミンの言葉をミカサが遮り待ったをかける。

「え、ミカサ……どうしたの?」

「あれ、見て」

 ミカサの表情がとても険しい。まるで、エレンに近づく自分以外の女を睨みつける時と同じくらい、鋭い視線をある一点に注いでいる。
 そんなミカサに、エレンとアルミンは顔を見合わせ、彼女が凝視しているものへ視線を動かし、そして大きく目を見開いた。


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