短編&中編
□オトメとバカとヤジ
2ページ/3ページ
オルオが身代わりになる〜ハンジ案〜
ペトラ、兵舎の廊下を歩いている。その後ろ姿をハンジがロックオン。
『ペ〜ト〜ラ〜!!』
『っ! はい!』
ハンジがいつものハイテンションでペトラに接近。そんなハンジにイヤな予感がしたペトラの表情は少々引きつっている。
『……どうされました?』
『巨人の話、聞きたくない?』
『え、いや……それは……』
歯切れの悪いペトラ。当たり前である。なんせ新兵の時、そのハンジの巨人話に付き合わされ寝不足でぶっ倒れたことがあるから。
『皆、私の話イヤって聞いてくれないんだよ〜〜ペトラなら聞いてくれるよね! ね?』
ズイッと顔を近づけられ、ペトラは項垂れる。もうこうなったら覚悟を決めるしかない、と。
そんな様子を遠くから見ていたオルオ。さあ、ここで男気を見せるんだオルオ。オルオ、ペトラの背後へ近寄る。
『ペトラ!』
『え、オルオ?』
『俺が身代わりになってやるから、お前もう行け』
『おお! オルオが聞いてくれるの?! ひゃっほ〜〜』
はしゃぐハンジを放って、ペトラは心配そうにオルオを見つめる。
『……いいの?』
『お前、またぶっ倒れるぞ』
『それは……オルオだって』
『お前が倒れるよりかマシだろ』
『オルオ……』
うるうるした瞳でオルオを見つめるペトラ。オルオ、平常心を保っているが心の中ではドキドキが収まらずに混乱中。
『いいから行け』
『うん……ありがとう!』
そうしてペトラは、礼を言ってオルオにハンジのことを任せて行った。
「てな感じかな? エミリ、どう」
「ん〜そうですねぇ。あのさ、フィデリオ。一つ思ったんだけど」
「おう」
「オルオがあんな普通にカッコいい感じで登場して喋れると思う?」
「思わねぇな」
「即答かよ!」
結構ハンジさんの案良かったんだけどな〜と残念そうな顔をする二人にオルオは殴りたくなる拳を必死で抑える。
「まあ、ハンジさんの案もさ、最後オルオが犠牲になるって感じの部分は面白かったんだけどな」
「フィデリオ…面白さしか求めてねぇだろ!!」
「え、悪いか?」
「ったりめぇだ! バカ!!」
やっぱしフィデリオには一発だけゲンコツを決めた。エミリにはしない。女だからとかそういう理由からじゃない。エミリはやられたらやり返すからだ。しかも倍で。だからエミリには何もしないのである。
「そっかぁ……結構良い案だと思ったんだけどねぇ。オルオの方に問題があったか……残念!」
「ハンジさんまで酷くないですか!?」
「ね、エルヴィンとミケは? 何か良い案ないの?」
「……そうだな」
ハンジに話を振られた二人は考える。
エルヴィンもミケも、なんだかんだ長く生きている。初恋くらいはした事あるが、恋人が出来た経験など無い。だが、片想いの気持ちは理解できる。
「エルヴィン団長とミケさんも、やっぱり恋とかしました?」
「昔の話だ」
「調査兵として生きている内に、歳をとるごとに恋人を作るなんて事は、考えなくなったな」
二人の話になんだか胸が切なくなるエミリ。エミリも片想いや恋が実らない辛さを知っているからか、二人の気持ちが解るのかもしれない。
だったらもっと真面目に協力してくれよ。オルオは心の中で文句を言う。
「ペトラの好きな男性のタイプは知らないのか?」
「ああ、好きなタイプかぁ……」
エルヴィンのナイスな提案。同期組が考え込む。
「エミリなら、ペトラと仲も良い。そういう話もしたことはあるんじゃないか?」
ミケの問に、『そうですねぇ』と相槌を打ちながらペトラと過去に話した内容を思い起こす。
「あ、そう言えば……」
「お、何かあったか?」
「うん! 実はちょっと前にね、恋愛について二人で話してたことがあって──」
今から数ヶ月ほど前、駐屯兵団に所属するペトラの友人から手紙が届いた。その手紙には、恋人ができたという近況報告も兼ねており、それがエミリとペトラの間で話題となった。
そこでエミリがペトラにした質問が次の通りである。
『ねぇねぇ、ペトラはお付き合いするならどんな男の人が良い?』
『好きな男性のタイプってこと?』
『そうそう!!』
二人でお菓子を食べながら、女の子が大好きな恋愛トークで盛り上がる。
『う〜ん……そうだなぁ。やっぱり、』
『やっぱり?』
『強くて、優しくて』
『ふむふむ』
『冷静で、頭が良くて』
『ほうほう』
『仲間思いな人、かな?』
ここでエミリの回想終了。
「って、言ってたんだけど……これって」
「ああ、まんま兵長だな」
「リヴァイだねぇ」
「間違いなくリヴァイだな」
エミリに続いてグンタが答える。ハンジ、ミケも同意。そして、全員の視線が一斉にリヴァイに注がれる。ただ黙って紅茶を飲んでいたリヴァイは眉をひそめた。
「おい、何でそうなる」
「いや、明らかにリヴァイだろう」
「相変わらずリヴァイはモテるね〜」
「うるせぇぞクソメガネ」
ギロリとリヴァイがハンジを睨めば、『わー怖い怖い』とヘラヘラ笑いながら言うものだから、リヴァイは苛立ちから舌打ちを鳴らす。
「へ、兵長がタイプかぁ……」
勝てる気がしない。いや、でもあれは理想のタイプであって好きな人ではないはず。そうだ、きっとそうに違いない。
オルオは自分を励ますしか無かった。しかし、
「ねぇ、オルオ」
「なんだよ」
「もう諦めたら?」
エミリのとんでもない一言にオルオは絶句。
「お前なぁ! 散々、人を振り回しといてそれはねぇだろ!!」
「じゃあ告白すれば?」
「そ、それは……」
それを返すのは卑怯だろう。いや、でもエミリの言うことも一理ある。しかし、恥ずかしくてなかなか言えやしない。
「もう! あんたこそ何をそんなメソメソしてんの! 男なら当たって砕けろ!!」
「砕けろとか言うなぁ!!」
「エミリ、やめてやれよ。流石にオルオが可哀想だって」
「一番非協力的なのお前だけどな!!」
さっきから面白さを求めて会議に参加しているフィデリオ。今も必死で笑いをこらえている。
「そうだ。エルド、お前なら何か良いアドバイスが出来るんじゃないか? 恋人、いただろう」
わちゃわちゃ騒ぐ三人に苦笑を漏らしながら、グンタがエルドに話を振る。そう、忘れてはいけない。エルドには現在お付き合い中の女性がいる。つまり、このメンバーの中で唯一両思い&恋人まで行き着いた人物なのである。
「そうだった! エルドさん!! 是非、このヘタレに女性が望む男の何たるかを伝授してやって下さい!!」
「ヘタレとか言うなぁ! エルドさん、俺からもお願いします!!」
「そうだなぁ……俺は、最近料理を勉強中なんだが」
「え、料理……?」
予想外の単語にオルオはポカンと口を開ける。
何故、料理?
一体どういう経緯でそうなった?
「料理なら、訓練兵の時も当番であったが、それでも殆どがシチューとかスープとかだっただろう? でも、レパートリーを増やしたいと思ってな」
「何で料理なんですか?」
「もし、一緒に暮らすようになった時、彼女が忙しい時や疲れている時なんかは、代わりに俺が料理を作ってやりたいと思ってな」
なんて優しくて素敵な男性なのだろう。エルドという男は。エミリは感激した。盛大に拍手を送りたいくらいに。
「さっすがエルドさん! 女の苦労を理解できる人っていいですよねぇ。家事は女の仕事だって考えが世間では多いけど、こうして家事にも協力的な男性ってステキだと思います!」
「はは、まさかそんなに褒められるとは思わなかった。ありがとな、エミリ」
「いやいや、もうホントに感動ですよ! ほら、オルオ!! あんたもエルドさんを見習いなさいよ!!」
「見習えって言われても……」
一応、料理はできる方だと思う。だが、エルド同様、訓練兵団の料理当番でやったくらいだ。
「よし! オルオ、厨房行くよ!! 丁度お昼だし!!」
「はぁ? 何でだよ!」
「勿論、料理するからに決まってるでしょ! オルオにどれだけ料理能力があるか見極めてあげよう!!」
「おい! 待てよ!! なんか趣旨変わってねぇか!?」
相変わらず嵐のようにオルオを振り回してばかりのエミリ。その姿は、まるでハンジのようだった。