短編&中編

□オトメとバカとヤジ
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 寒い冬と共に年が明けてすぐのこと。調査兵団本部のある一室で、真剣……ではなく妙な会議が開かれようとしていた。

「ゴホン……えー、それではこれより『第2回 あの子のハートを掴め! 大作戦!』の会議を始めま〜す!!」

「いえーい」

「じゃねぇよ!!」

 ノリノリでネーミングセンス皆無のタイトルを読み上げるエミリ。その隣にいるフィデリオは棒読みで『いえーい』と声を上げる。そして、相変わらず弄ってくる二人に、今日もオルオはドデカいだけのツッコミを入れた。

「今度は何する気だ!?」

「何って、そりゃあ前回のオルオがあまりにも不憫だったからさ。ちょっともう一回仕切り直そうかってことで会議をね」

 前回とは、丁度一ヶ月前のペトラの誕生日に、オルオが阿呆やらかしてペトラを怒らせた時のこと。
 あの日、オルオは挽回するためエミリ達と緊急会議を開いた(ほぼ無意味だった)が、肝心の所でペトラにカッコつけられず終わった。最終的には優しさで溢れたペトラがオルオを気遣ったことで、いい感じのラストとなったのだ。
 だがしかし、先日、『決まらない男にペトラが振り向くか!!』というエミリの罵声がオルオのハートにグサリと刺さり、こうして『第2回 あの子のハートを掴め! 大作戦!』会議が開かれたのである(エミリが勝手に開いただけ)。

「余計なお世話なんだよ! つーか、タイトルそのまんまじゃねぇか! エミリ、実はネーミングセンスねぇだろ!」

「えー、それでは本日のゲストに登場して頂きましょう」

「聞けぇ!!」

 いつものように、華麗にオルオのツッコミを無視し、エミリは本日のゲストとやらの紹介を始める。

「今回来て頂いたのは、エルドさん、グンタさん、そして、リヴァイ兵長の皆さんです!」

「前と面子変わってねぇじゃねぇか!!」

 第一回もこの三人と会議を開いた。ゲストとは言わないのでは? そんな疑問が浮かんだが、そういうことをいちいち突っ込んだところでこの幼馴染コンビは、どうせオルオを無視するため何も言わないことにする。

「こら、オルオ! 忙しい中せっかく来ていただいたんだから文句言わないの!!」

「母ちゃんかお前は!!」

 勝手に人を振り回しているのはエミリのクセに、どうして俺が怒られているのだろう。オルオの苛立ちはこみ上げるばかり。

「まあまあ、落ち着けって。ちゃんと、スペシャルゲストも呼んでるから。な?」

「ゲストにスペシャルついただけじゃねぇか! 何が変わるんだよ!」

 オルオの声がどんどん枯れていく。会議は始まってまだ数分しか経っていない。持つだろうか。

「えー、それでは登場して頂います。ハンジ分隊長、ミケ分隊長、エルヴィン団長デス」

 『どーぞ』というフィデリオの言葉を合図に、部屋に入ってくる大男二人と今日もハイテンションの奇行種。
オルオ、再び突っ込む。

「何で団長達まで巻き込んでんだよ!!」

「だってぇ、色んな意見があった方がいいと思って」

「何よりいっぱい居た方がさ、面白いだろ?」

「お前ら二人が出ていけば一番早い話だと思うけどな!」

「ハイ、それじゃあ、早速本題に移りたいと思います!」

 やっぱり無視されるオルオ。スルーされるのは分かっている。ならもう諦めて突っ込まなければいい。だけど、きっとツッコミという概念が無ければこの幼馴染コンビはどんどん調子に乗り出すだろう。特にエミリが。

「──というわけで、前回のオルオの告白が見事に決まらなかったのですが……」

「ちょっと待て! 俺は別に告白なんてしたわけじゃねぇ!!」

 ゲストのリヴァイ達は共に最初から最後まで様子を見ていたため知っているが、エルヴィン達スペシャル組は何も知らない。よって、エミリが詳しくあの日の出来事を話す。しかし、またもや可笑しな点を見つけたオルオが再び抗議。

「あれは、謝りに行っただけで告白じゃねぇ!!」

「あのねぇ、オルオ。男はいつでも好きな子に告白できるような勇ましい心が必要なの。ハイ、ここテストに出るからちゃんと覚えててね〜」

「聞いたことねぇよそんな話! テストなんて知るか!!」

 相変わらずボケるエミリに突っ込むオルオは息切れ寸前である。本当に最後まで持つだろうか。まだ持ち堪えている自分を誰か褒めてほしいくらいだ。

「まあまあ、落ち着きなよ! 私達も良い案を出してあげよう!!」

 そこにハンジがどうどうとオルオを宥める。そうは言うが、正直この人にもあんまり期待していない。イヤな予感しかしないからだ。

「え、ハンジさん、何か良い案があるんですか!?」

 エミリが目をキラキラと輝かせる。

「ふふっ……まぁね〜」

「どんな案なんですか?」

「皆、私の巨人の話は嫌いだよね!」

「嫌ですねぇ」

 ていうか自覚あったのか、この人。その場の何人かが心の中でひっそりと思う。

「それを利用しようと思う……! まず、私がペトラを誘う」

「ほうほう」

「私の誘いを受け、迷い嫌がっているところにオルオが登場!」

「ああ! もしかして、身代わりになる的な感じですか!!」

「そうそう! どう?」

「オルオが身代わりかぁ……」

 ハンジの提案に、エミリは脳内でそのやり取りを再現し始める。

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