短編&中編

□正月早々の苦労
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 お節を食べ終え、少し休憩した二人は早速初詣のため家を出た。街は正月で賑わっており、家族連れが多く見られるが恋人や友人同士で初詣へ向かう人達もいる。
 エミリは、はぐれないようにしっかりとリヴァイと手を繋ぎながら、日本の街を楽しそうに見ていた。

「あ!」

「どうした?」

「リヴァイさん、あの女の人達が着ているのって着物ですよね?」

 エミリが視線向ける方を見ると、赤色の生地に煌びやかな柄が施された着物をまとう女性が目に入る。

「ああ、みてぇだな」

「わぁ、綺麗……」

「…………」

 まるで、お伽噺に登場するお姫様に憧れる様に、うっとりと着物の女性に見惚れるエミリ。リヴァイはそんな彼女を横目に、街を見回すと一つのある店が目に入る。

「……エミリ」

「はい?」

「着物、着るか?」

「……えぇ!? だ、大丈夫ですよ……!! 着物だって、着るのにお金かかるじゃないですか!!」

 エミリはそう言うも、リヴァイはそんな彼女の言葉を無視して店の方へ歩いて行く。

「あの、リヴァイさん……本当にいいんですよ?」

「何言ってる。着たそうな顔してただろうが」

「それは……」

「……それに、俺も見てぇからな」

 リヴァイの言葉にエミリの心臓がトクンと高鳴った。着物のレンタルは高いと聞くけれど、リヴァイが見たいと望むならそうしようか。

「それじゃあ……お願いします!」

「ああ」

 ふにゃりと笑ってお願いするエミリが可愛らしく、リヴァイは思わずエミリの額に口付けを落とす。

「リ、リヴァイさん……! 外ではやめてください!!」

 甘えん坊のエミリだが、リヴァイから何かされるといつもすぐ顔を赤くする。そんな彼女をもっと苛めたくなるリヴァイだが、今は外出中であるため、家に帰ってからにしようと密かに帰宅後の予定を決めていた。

「リヴァイさん、似合いますか?」
「ああ」

 早速、着物を選んで着付けをしてもらった。そんなエミリが着ている着物は橙色の生地だ。橙といっても色が薄いため黄色に見えなくもない。帯は白、髪はポニーテールに結い上げ、髪飾りを付けている。全てリヴァイが選んだものだ。
 そしてエミリを見ながら思う。やっぱりエミリには、黄色や橙色などの元気な色が似合うと。

「エミリ」

「はい?」

 楽しそうに自身が纏う着物を見るエミリの腕を引っ張って、リヴァイは自分の方へ引き寄せると耳元で囁くように言った。

「似合っている」

 突然抱き寄せられそんなことを言うものだから、エミリは顔を一気に赤面させて黙り込む。耳はリヴァイの吐息でなんだか擽ったい。

「〜〜〜っ兵長のばか……」

 きゅっとリヴァイの服を掴んでポツリと呟くように投げるエミリの言葉に、リヴァイは一瞬固まる。

「おい、あまりあの肩書きで呼ぶんじゃねぇ」

「……つい。でも、今のはリヴァイさんが悪いんですからね」

 ぷいっと顔を背けるエミリの頭をポンポンとあやす様に撫で、悪かったと口にする。
 二人には、この平和な世界で生きる前の前世の記憶が存在していた。彼らだけでなくエレン達104期のメンバーも、リヴァイの同僚であるハンジやミケ、上司のエルヴィン達もだ。だから、あの残酷な世界を去ってからこの世界で出会えたのは、本当に奇跡だと思った。それはきっと、偶然であり、必然。
 リヴァイの腕の中で、笑ったり怒ったり照れたり、コロコロと表情を変えるエミリを抱きしめる腕を更に強くする。

「エミリ、好きだ」

「ま、また……そういうこと言うんですから。…………わたしも、好きです」

 ちゃんと恥ずかしがっても素直に応えてくれるエミリが愛おしい。リヴァイはキスをしたくなるが、必死で我慢した。


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