短編&中編
□正月早々の苦労
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「あけましておめでとうございます! リヴァイさん!!」
リヴァイが朝起きてリビングに向かうと、エプロンを付けたエミリがウキウキと朝食の準備を始めていた。
リヴァイが務める会社の関係で日本に転勤中のリヴァイは、現在、まだ大学生の恋人を連れて寒い冬を過ごしている。大学生の冬休みが、エミリが冬休みの間は二人で日本で過ごすと決めていた。
そして、冒頭の言葉は日本の伝統挨拶。新年を迎えると『あけましておめでとう』と言うらしい。これはエミリから聞いたが、エミリは彼女の弟・エレンの友人であるアルミンから教えてもらったようだ。
「ほらほら、リヴァイさんもちゃんと挨拶して下さい!」
リヴァイの前へ移動し、エミリがニコニコと微笑みながら挨拶を促す。リヴァイはそんな彼女の頭を優しく撫で口を開く。
「……あけましておめでとう」
いつもと変わらず無表情でそう言えば、エミリはニッコリと嬉しそうに笑い、ギュッとリヴァイに抱き着く。
「ほら、飯にするぞ」
「は〜い!」
リヴァイから離れたエミリは、お節料理とお雑煮の準備を始める。
これらの料理は、エレンの幼馴染であるミカサの母親から教わったと聞いた。日本で新年を迎えるという話をすると、日本の伝統行事や食べ物について色々教えてもらったのだと。
「リヴァイさん、準備できたので食べましょう!!」
「ああ」
洗面所で顔を洗い歯磨きを終え、リヴァイは席に着く。手を合わせて『いただきます』と挨拶してから、箸を持って重箱に入ったお節の具材を小皿に移し、それを口に運ぶ。
「リヴァイさん! どうですか?」
目をキラキラと輝かせて、リヴァイに料理の感想を問うエミリ。そんな彼女にリヴァイはフッと微笑み、旨いなと口にすれば、エミリは嬉しそうに顔を綻ばせる。頑張って作って良かったと言いながら、彼女も美味しそうにお節を食べていた。
「箸の使い方、慣れてきたな」
スっスっとお節を小皿に移し、口元へ運ぶエミリを見ながら思い出すのは、始めて彼女が箸を持ったときのことだ。
二人の母国では、スプーンやフォーク、そしてナイフを使って食事をすることの方が多い。エミリも最初は上手く使えず箸と格闘していた。
「えへへ、ミカサのお母さんからも使い方のコツとか教えてもらいましたから」
「そうか」
器用なリヴァイはすぐに使いこなすことが出来たが、割と不器用なエミリは箸を使う度に疲れた表情をしていたことを思い出す。
「リヴァイさん、初詣はいつ行きます?」
日本の正月は神社へ初詣に行く。それが伝統行事である。
初めて日本に来たエミリは、神社や日本文化にも興味を示しており、日本へ来た時からずっと楽しみにしていた。
「食べて少し休憩したら行くか」
「はーい!!」
本や写真などでは見たことあるが、実際に行くのは初めてだ。それだけでなく、日本の料理──特に和菓子も興味の対象だった。
「初詣楽しみです! リヴァイさん、美味しいものもいっぱい食べましょうね!!」
「お前の場合は食いもんの方が狙いだろうが」
「そんなことないですよ!! 日本に来たのは勉強でもあるんですから。あ! リヴァイさん、私、植物園にも行きたいです!」
もう大学生のエミリだが、正直まだまだ子供に見える。エミリは面倒見も良いし、真面目でしっかり者だが、リヴァイの前だと意外と甘えん坊だ。やはり弟がいるからだろうか、無意識にしっかりしなければと責任感が働いているのかもしれない。
また、エレンだけでなく、ミカサやアルミンと年下の友人が多い。確か、エレン達の中学からの同級生達とも仲が良かったはずだ。
もしかしたら、それらの反動が全部リヴァイの前で出ているのかもしれない。というのが、仕事の同僚であるハンジの見解だ。しかし、それはリヴァイにとって好都合である。誰も知らないエミリを自分だけが独占できる優越感に浸った。
「リヴァイさん、お雑煮のお代わりどうですか?」
「ああ、貰おう」
リヴァイが使っていたお椀を受け取り、パタパタとキッチンへお雑煮を注ぎに動くエミリを見るリヴァイの目は優しい眼差しだった。