短編&中編
□お菓子狩りだぁ!
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「お菓子狩りだぁ!」
「………………は?」
また一段と寒さが増してきたある秋の日のこと。突然、大きな籠を持ったエミリが意味不明の言葉を発し現れた。勿論、籠を突きつけられたオルオは状況に着いていけず素っ頓狂な声を出す。
「……何やってんだよお前」
「はぁ、またか……」
呆けたように口を開けたままのオルオ。その隣に座っているフィデリオが、エミリに呆れを含んだ冷たい視線を送る。
「『またか』とは何よ!」
「お前さ、本当に懲りねーよな」
「いいじゃない! 今日はハロウィンなんだから!」
そう、今日はハロウィン。
お菓子が貰えるハロウィン。
つまり今、フィデリオとオルオに籠を突きつけているのは『お菓子を頂戴』のサインである。
「そういうことかよ!」
「普通気づくでしょ?」
「気づくか! なにが『お菓子狩りだぁ!』だよ!」
変なところでボケるエミリにオルオが全力でツッコミを入れる。普通なら『Trick or Treat!』が合言葉だ。お菓子が欲しい子供達は、この言葉、『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』という、若干脅迫まがいの言葉を大人に言ってお菓子を貰うハズなのだ。
「せめて『Trick or Treat』ってちゃんと言えよ!」
「もう毎年その言葉使ってるとさ、飽きてこない?」
「知るか!! ていうか毎年やってんのかコレ!」
ツッコミ過ぎてオルオの息がどんどん切れてきた。かなりズレた発言をするエミリのせいで頭が混乱しそうだ。
フィデリオはもう慣れているのか、それとも振り回され過ぎて嫌気が差したのか、明後日の方を向いていた。
「じゃあ……私の渾身のビンタを受けたく無かったらお菓子を寄越せ」
ほれほれ、と更に籠を突きつける。
「何でビンタ!? 何で命令形なんだよ!! もうそれ脅迫だろ!!」
「何言ってるの。いつもの合言葉だってある意味脅迫でしょ。今更だわ」
キョトン顔でサラリと発言するエミリに、危うく『確かに』と同意しそうになったオルオは慌てて口を閉じ、言葉を切り替える。
「そうじゃなくてだな!! そもそも、そんなの脅迫にもならねーよ!」
「そりゃあ私が言ったらね?」
「自覚はあるんだな! ていうか、誰が言ってもならねーよ!」
「いや、そうでも無いわよ」
残念とでも言いたそうな顔で首を振るエミリに少しイラッときたオルオだが、いちいち彼女の言動に反応していてはキリがない。取り敢えず今は叫びたい気持ちを抑えた。
そしてエミリが言った、『ビンタ(他、殴るでも回し蹴りでも可)をされたくなければ菓子を寄越せ』という言葉。一体誰が放てばこれは脅迫として成り立つのだろうか。
「ほら、例えばさ…………リヴァイ兵長とか」
「おい待て! 確かにリヴァイ兵長が言えば成り立つかもしれねーが、お菓子如きで兵長がンなこと言うかよ!! 色々とおかしいだろ!」
「お菓子だけに?」
「お前ちょっとだまっグハッ!!」
いつかはやるとは思っていたが、ツッコミの途中でオルオが見事に舌を噛んだ。黙れと言うつもりが逆に自分が黙るハメになってしまった。なんということだ。
「ただの例えでしょ」
「た、たとえへもなぁ……!!ききはくねーんはよ!!」
舌を噛んでも『た、例えでもなぁ……!!聞きたくねーんだよ!!』とツッコミを止めないオルオに、エミリは心の中で軽く拍手を送る。
「とにかくさ、お菓子頂戴よ」
「はいしょからそう言へよ……!!」
ツッコミと舌を噛んだせいで、オルオの体力……というより精神は限界に近づいていた。早く何とかしてこの悪魔(##NAME1#)#を追い払わなければ自分が倒れてしまう。
(つーか、これ絶対嫌がらせだろ!)
「ペトラ達はくれたよ〜?さっきの『お菓子狩りだぁ!』って言ったら、みんな"お菓子"で気づいてくれて」
「へっ」
「本当にオルオってば物分りが悪いんだから」
「お前もうどっか行け!!」