短編&中編
□やっぱ最後はbe happy
1ページ/4ページ
汗だくの体を風呂で洗い流し、オルオに言われた通り私服に着替えたリヴァイとフィデリオは、矢に括りつけられていたメモを手に街を歩いていた。目指すは、紙に記されてある場所だ。
「一体、何があるんでしょうかね?」
「さぁな。だが、おそらくそこにエミリがいる」
会ったらまずはどうしてやろうか。決まっている。昨日、一緒に居た男の正体と関係を問い詰め、そして、日曜だけリヴァイを避けていた理由と隠し事とやらを聞いてやる。納得のいかない理由だったらどうしてやろうか。一晩ずっと可愛がってやるのも悪くない。
ひっそりと頭の中で計画しながら、足を進めた。そして──
「ここ、みたいですね」
目の前に建つ、建物を見上げる。どうやら宿のようだ。なかなかお洒落な外装で、一泊するだけでも結構な金が掛かりそうである。一体、ここで何をしているというのだろう。
フィデリオが建物の名前と住所を確認する。全てメモの内容と一致したため、二人は迷わず中へ入った。部屋の番号を確認し、階段で二階へ上がる。扉に記されてある番号を見ながら部屋を探し歩いた。
「この部屋です」
「入るぞ」
「え、いきなり!?」
ノックもせずにドアノブを捻ろうとするリヴァイに驚くフィデリオだが、リヴァイとしては一刻も早くエミリに会いたい。会って話がしたかった。
ガチャリと扉の開く音と共に扉を引く。
「兵長、フィデリオ、お待ちしてました」
「ペトラ!?」
にっこりと微笑みながら二人を出迎えたのは、エミリとずっと行動を共にしていたペトラが立っていた。
「……エミリはどうした?」
「奥の部屋にいます! どうぞ上がってください」
ペトラに促され、二人は部屋の中へ入る。そして、エミリが居るという奥の部屋へ案内された。ペトラがその部屋の扉を開くとそこには──
「おかえりなさい、リヴァイさん!」
私服にエプロンを付け、髪を下ろしたエミリが、楽しそうな表情で立っていたのだ。
それよりもリヴァイは、彼女の口から発せられたものに戸惑った。"いらっしゃい"ではなく、"おかえりなさい"。そして、"兵長"ではなく"リヴァイさん"だったから。
次にリヴァイの目に入ったのは、机に並べられた食事。パンにスープ、グラタン、サラダ、肉、更にはケーキやワインもある。
「…………何だ、これは」
「ふふ。今日、何の日か分かっていますか?」
「今日? 何かあったか」
「ご自分の誕生日じゃないですか」
「!」
エミリの言葉ではっとする。すっかり忘れていたが、今日は12月25日。リヴァイが生まれた日だ。
ようやく状況が見えてきた。今までリヴァイに隠し事をしていたのも、この食事も、全てエミリがこの日のために……リヴァイのために準備したものだということを。
「いやぁ〜何とか上手くいって良かったねぇ」
「ああ!?」
そこに現れたのは、ハンジ、モブリット、オルオ、エルド、グンタの五人だ。フィデリオは思わず指を差し、声を上げた。
「やっぱり、皆さんエミリに協力してたんですね……」
「悪いな、フィデリオ」
「エミリにどうしても、と頼まれたんだ」
ショックを受けるフィデリオに、エルドとグンタが眉を下げて謝る。リヴァイとフィデリオが尾行中の時、偶然を装っていたがやはりあれはリヴァイの予想通りわざとだったらしい。
「リヴァイ相手に、嘘付くなんて至難の業でしょ? 特に、エミリなんか嘘つくのがまず苦手だしね」
「だから、我々に手伝って欲しいと言って、エルヴィン団長やミケさんにも声をかけ、皆で計画を立てたんです」
ハンジとモブリットの説明を聞き、リヴァイが軽く舌打ちを打つ。頭の中には、してやったりとほくそ笑むエルヴィンの顔が浮かび、顔を顰めた。
「ていうか、何で俺は何も知らされて無かったんですか……」
リヴァイはともかくとして、フィデリオだってその計画に加わっていたって何ら問題ないはずだ。
「仕方ねぇだろ……誰か一人くらい、事情を知らない奴がいた方がいいっていう、団長からの提案で、そしたらエミリが、お前が適任だって言ったんだよ」
「はあ!? エミリのせいかよ!!」
「怒らないでよ。それに、フィデリオがいいって言ったら、誰も反対する人なんていなかったし」
「……なんだそれ」
勿論、フィデリオを選んだのには理由がある。彼はエミリの幼馴染だからだ。
彼が、今回の事情を知っているにしろそうでないにしろ、リヴァイはフィデリオも協力者なのでは無いかとまず疑いにかかるだろう。
だから、エルヴィンが二人をくっつけるよう仕向けた。そのとき、リヴァイはまだエルヴィンも協力者であることに気づいていなかったため、スムーズに事を進めることができたのだ。
そして、何も事情を知らないフィデリオと接触させることで、リヴァイの警戒心を解かせ尾行に移させた。
そうやって二人をくっつけることによって、今度はリヴァイ達の行動範囲が予想できる。
フィデリオに対して警戒を解いたリヴァイは、エミリをよく知る彼を頼るだろう。そして、エミリの行きそうな場所を探し回るだろう。
それを利用して、エミリ達は敢えて全く別の場所で計画を進めることが出来る、というわけだ。
「そういう事かよ……」
「良い仕事してくれてありがとう、フィデリオ!」
憎たらしい笑みを浮かべるエミリに、何だか殺意が沸いてくる。
そこである事を思い出したフィデリオは、ニヤリと口角を上げ口を開いた。
「そう言うけどよォ、お前……他にも兵長に言わなきゃならねぇことがあるんじゃねぇの?」
「え? 何のこと?」
「とぼけんな……! お前……昨日、他の男と楽しそうに手ぇ繋いでたんだってなァ!」
フィデリオの言葉に、その場の空気が一瞬にして凍りついた。