短編&中編
□尾行へ移行
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「はぁ……何でこんな事に……」
朝食を食べながら、フィデリオは深い溜息を吐いた。それもそのはず、午前の訓練を終え昼食をとった後はリヴァイと共にエミリの尾行に駆り出されることとなったからだ。
「フィデリオ? 溜息なんか吐いてどうしたの?」
ちなみにその元凶といえば、今日も呑気にご飯を食べお代わりを繰り返している。
「別に……」
「朝から機嫌悪いわねぇ」
(誰のせいだと思ってんだよ!)
呆れた表情を見せるエミリに色々と言いたくなるが我慢する。リヴァイにも、『くれぐれも今日尾行するということは本人達に悟られないようにしろ』と釘を刺されているからだ。バレたらたまったもんじゃない。
「どうしたの?」
「あ、ペトラ! 聞いてよ!! フィデリオったら、さっきから機嫌悪くて」
「ふーん。まあ、そんな事より……」
(『そんな事』だぁ!?)
おそらくエミリとグルであろうペトラは、フィデリオの苦労も知らず、面白くなさそうな顔をした後、楽しそうにエミリとお喋りを始める。何でこの二人はこんなに俺に冷たいんだ、といつも文句を飛ばしたくなるが今更なためもう何も言わない。
「今日もお出かけする?」
「うん! もちろん!!」
「!」
エミリとペトラの会話にフィデリオの耳がピクリと反応する。チャンスだ、何か手がかりを掴めるかもしれない。ここは何も知らないフリをして、隠し事のきっかけを掴んでやろう。
「そういや、お前ら最近よく二人で出掛けてるよな」
「ええ。二ヶ月程前にできた雑貨屋さんあるでしょ? そこで手芸教室が開かれてて、エミリとずっと一緒に通っているの」
「へ〜そうだったのか」
リヴァイが怪しいと踏んでいたのは二ヶ月前。今のペトラの発言を聞くと、ぴったりと当てはまる。
(何だ……こいつらただ手芸教室に通ってただけなんじゃねぇか)
無事謎は解決。この事をリヴァイに知らせれば、憂鬱な尾行も無くなるだろう。
食事を終え、エミリ達と別れたフィデリオは早速リヴァイの執務室へと急いだ。
「──というわけで、無事に謎は解決しました! 今日の尾行は無しですよね!」
「あ? 何言ってる。やるに決まってんだろう」
「…………」
事情を説明した後に返ってきたリヴァイの言葉に、フィデリオは絶句する。まさか、ここまでエミリに執着しているとは思わなかった。流石にエミリに同情する。
「あの、兵長……流石に深入りしすぎでは?」
「馬鹿か。よく考えてみろ。ただ手芸教室に通いてぇなら、最初からそう言やぁいいだろうが。何故俺に隠す」
「……言われてみれば、そうですね」
リヴァイの最もな意見に、フィデリオはふんふんと頷く。どうやらまだ謎は解決していなかったようだ。結局、尾行に付き合わされるのか。フィデリオは落胆する。
「午後からは昨日、予定した通りあいつらを尾行する。分かったらさっさと訓練へ行け」
「……はい」
何をやってもこの兵士長には適いそうにない。深く溜息を吐いたフィデリオは、執務室を出た後そのまま訓練場へ向かった。
「遅かったじゃねぇか、フィデリオ」
「……ああ、オルオか」
「おいおい、何だ何だ? 辛気臭ぇ顔しやがって」
「うるせぇな……色々あったんだよ」
何も事情を知らないオルオは、さっきのエミリやペトラと同じように呆れた表情を見せている。
(何なんだよ……俺、今日厄日なのか……?)
リヴァイと尾行をする事になったり、同期三人からは冷ややかな視線を送られたり、朝から本当に憂鬱だ。
頼むからこれ以上何も起きないでくれ。心の中で嘆くフィデリオであった。