短編&中編
□お菓子狩りだぁ!
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「…………」
「こ、こんにちはです。リヴァイ兵長」
エミリはエルヴィンに言われた通り、リヴァイの執務室へ訪れた。入る時に少し緊張はしたが、進まなければ何も変えられない。ということで、勇気を振り絞って執務室の扉をノックしたエミリはリヴァイの許可を得てこうして部屋の中に入ることには成功したわけだが……────
「…………何だ。その大量の菓子が入った籠は」
リヴァイの鋭い三白眼が呆れた視線でエミリを射抜く。そうなっても仕方が無い。何故なら、ハロウィンの日にお菓子が大量に入った籠を持って執務室に来るという出来事は前代未聞だ。
「まさか、ハロウィンだからって俺に菓子をねだりに来たんじゃねぇだろうな?」
「…………うぅ…………ほらぁ!! やっぱり誤解される!!」
リヴァイから流れるとんでもない不機嫌オーラにエミリはとうとう泣き叫んだ。文字通り、泣き叫んだ。
「もう何なんですか!! ミケさんといい、団長といい……私をいじめて楽しんでるでしょー!! 私がお菓子あげればいいんですか!? そしたら何もされませんか?!」
「ギャーギャーうるせぇ」
ビシッとリヴァイのデコピンが入る。あまりの痛さにエミリは籠を抱えたまま座り込んだ。
「兵長、痛いです……」
「お前がピーピー喚くからだろ。大体この歳になってまだハロウィン如きで騒いでんのか。ガキが」
「何言ってんですか! 子供なんですからハロウィン楽しんだって問題ないじゃないですかあ!!」
籠を上下にブンブン振りながら怒るエミリだが、リヴァイからすれば駄々を拗ねる子供と大差ない。
「それに私は、エルヴィン団長に頼まれて来たんですから!!」
「……やはりか」
菓子を持って現れるエミリの姿から何となく予想はしていた。楽しそうにほくそ笑む彼の顔が浮かび上がり、舌打ちを打つ。
「なんか、リヴァイ兵長が困っているだろうからって……」
「…………」
実際、エルヴィンの言う通り本当に困っていた。執務室のソファに置いてある大きな紙袋に視線を移す。
「ほら、持って行け」
「え」
紙袋を掴み、エミリへ押し付ける。いきなりそれを渡されたエミリは困惑しながらも袋の中を覗いた。そこには、それぞれ違う色や模様の可愛らしい袋とリボンでラッピングされたお菓子たちが大量に入っている。
「……兵長、これって……」
どう見てもリヴァイに好意を寄せている恋する乙女たちからの贈り物だ。こんなの貰ってもいいのだろうか。いや、いいわけない。何より見つかったら殺される。リヴァイではなく、エミリが、だ。
「兵長、貰えませんよ!! これ女の子達が心を込めて兵長に贈ったものじゃないですか!!」
「俺は欲しくねぇ。迷惑だ」
「えぇ!? 酷いですよ!!」
「勝手に言ってろ」
先程の高価なお菓子も大概だがこちらもなかなかだ。ご丁寧に全て手作りのもの。尚更貰えない。申し訳なさ過ぎる。
「むぅ……いいですね、全く。モテるだけでこんなにお菓子が貰えるのに!!」
「はぁ……要はお前が言いたいのはそれだろうが」
何もしなくても大量の美味しいお菓子が貰える。それに加えて食べ放題が出来る。こんなにも幸せな話は無い。
エミリの考えはいつも方向性がズレている。さっきまで申し訳ないとか思ってた奴はどこの誰だ。そんなことを内心思いながらリヴァイは仕事に戻る。
「用が済んだらさっさと出て行け………………おい」
声を掛けても返事が無いエミリが気になり、書類から顔を上げれば何やら紙袋の中をゴソゴソと探っている。
(……何やってんだコイツ)
もう何も言わずに放っておくのが一番かもしれない。そう思って再び仕事に取り掛かろうとした。
「あ!」
そしてまたまた邪魔が入る。大きな声を上げるエミリに今度は何だと顔を上げ、固まった。
「えーっと、何なに? 『リヴァイ兵長へ いつもありがとうございます。お礼といっては何ですが、』いだっ!!」
いきなりエミリの頭上にリヴァイの鉄拳が入った。さっきのデコピンよりも強烈なそれにエミリは頭を抑えながら床へ伏せる。
「〜〜〜何すんですか!!」
「それはこっちの台詞だ。こんなもん読み上げんじゃねぇ」
そう言ってポイッとゴミ箱へ手紙を捨てるリヴァイにエミリは掴みかかる。
「兵長! 流石に今のは酷すぎます!! 最低です!!」
「手紙を読み上げてたお前に言われたくねぇ……」
「兵長が中身も確認せず私にお菓子を押し付けるからじゃないですか! それに、兵長には皆から送られてきた手紙をちゃんと読む責任があります!!」
「知るか」
ポカポカとリヴァイの背中を叩くエミリだが、人類最強には全くもって効果がない。
リヴァイはそのまま紙袋の中を机の上へ広げ、手紙やメッセージカードを抜き取りそれをもう一度袋の中へ戻すと、再びエミリに押し付けた。
「これで文句はねぇだろ」
「…………ちゃんと読みますよね?」
「さっさと出て行け!」
そしてエミリは、リヴァイにお菓子と共に部屋の外へつまみ出された。
「当分来るんじゃねぇ」
「え!? 兵ちょ」
言い終える前に扉が閉められた。途端に静かになる空間。エミリは口を尖らせたまま籠と紙袋を持って兵舎へ戻る。
「ペトラァ!!」
そして部屋に戻った途端、大好きなペトラに泣きついた。
「どうしたの? ていうか……なんかお菓子の量がスゴいんだけど……」
予想を超えた量に、ペトラは口元を引き攣らせる。まさかこれを一人で食べるつもりなのだろうか。
「ねぇ、聞いてよ!! 兵長がヒドいの!!」
「え、兵長!?」
何故そこで兵長という単語が出てくるのだろうか。まさか、リヴァイにまでねだりに言ったのかと考えてしまう。
「エミリ、もしかして……」
「誤解!! 誤解だよペトラ!! ていうか、始まりはミケさんなんだからー!!」
こうして、エミリのハロウィンは最終的にペトラに泣きつくことで終わりを迎えた。
彼女の話を全て聞き終えたペトラは、『気の毒に……』とエミリの背中をポンポンと撫でながら、例の高価なお菓子を二人で食べてたのであった。