短編&中編
□尾行へ移行
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「よし、行くぞ」
「はい!!」
訓練も昼食も終え、門の前で待ち合わせをしたリヴァイとフィデリオは、早速数分前に私服で出かけて行ったエミリ達を追った。
朝食時と変わらず楽しそうにお喋りして歩いて行く二人の後を、バレないようにこっそりと付いて回る。勿論、街を歩く人達に怪しまれない程度に。
「……何を話しているんでしょうか?」
「さぁな……」
残念なことに、二人の会話は市場の賑わいに掻き消されて全く聞こえない。
「あの、兵長……まだ続けるつもりですか? もういいんじゃないですか?」
「あ?」
「い、いえ……何でもありません」
リヴァイにギロリと睨み返されればもう何も言えない。フィデリオはバレないように本日何度目かの溜息を吐いた。
「あれ、兵長にフィデリオじゃないですか」
「珍しい組み合わせですね」
「ああ、お前らか……」
そこで二人に声を掛けてきたのは、ペトラとオルオ同様、リヴァイ班に選抜されたベテラン兵士のエルドとグンタだった。二人はあまり見ない組み合わせに不思議そうな顔をしている。
「まあ、少しこいつに用があってな」
「あはは……」
リヴァイの言葉にフィデリオは乾いた笑みを零す。
(俺は連れ回されてるだけなんですけどね……)
用と言うよりか、エミリ達のことで完全に巻き添えを食らっているようなものだ。
「お二人は何をしてるんですか?」
「俺達は、駐屯兵団にいる同期と久しぶりに会うことになってな」
「今から丁度、集合場所に向かうって所で、兵長とフィデリオを見かけたんだ」
「そうだったんですか」
エルドとグンタを羨ましく思う。今頃自分だって、自室でのんびりと同期達とくつろぐ筈が、しょうもない尾行に駆り出されパーだ。そんな事を思いながらエミリとペトラが歩いていた場所に視線を戻す。そしてフィデリオは、カッと目を見開いた。
「兵長!! エミリ達いません!!」
「何だと?」
フィデリオの指差す方へ視線を向けると、二人の後ろ姿は無くなっていた。エルドとグンタと話をしている内に見失ってしまったようだ。尾行開始からおよそ13分。こんなにも早くに二人を見失ってしまうとは……。
「チッ……」
リヴァイは舌打ちを打つ。それ以外に何をしろと言うのだろう。
巨人一体、逃がさず削ぎ殺す人類最強の兵士長が、まだ17歳の恋人を尾行開始早々見失ってしまうなど、何たる不覚。その上これがハンジ辺りに知られれば、絶対ネタにされるに決まっている。
「……フィデリオ」
「は、はい!」
「探すぞ」
「……はい」
そしてリヴァイは、『じゃあな』とエルドとグンタに声を掛けてから、フィデリオの首根っこを掴んでエミリの捜索を再開した。
そんな人類最強の意外な一面と、彼に引き摺られ連れ回されているフィデリオの何とも可哀想な姿を見ながら、精鋭班の二人は穏やか表情を浮かべている。
「兵長、エミリにベタ惚れだな」
「ああ。どれだけ兵長が最強でも、やっぱり一人の人間で男なんだな」
普段は人類最強の兵士長か、掃除に関して超完璧主義な姿しか見ていないため、エミリという恋人に振り回されている姿を見るととても和む。それと同時に安心した。
「兵長は良い恋人ができて幸せ者だな」
「ああ。エミリ、頑張れよ」
何故かその場にいないエミリに向かって、二人は密かにエールを送ったのであった。