Vergiss nicht zu lacheln

□第4話
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 翌日からは、実践の訓練よりもエルヴィンが考案した長距離索敵陣形を頭に叩き込むことが主だった。一ヶ月後には、壁外調査が控えている。身体を動かすことも必要だが、この陣形は壁外で巨人と戦うために必要な知識なのだ。
 講義が終わった後は、それぞれの配属班が発表される。一同は講堂に集まり待機。その後は、各班長から制服の贈呈とこれから相棒となる馬を選ぶ予定となっていた。


「それではこれより、諸君らの配属班を発表する! 呼ばれた者は、各班長の所へ」


 上官の掛け声に新兵達は背筋を伸ばす。誰がどの班に配属されるのか、皆緊張した面持ちだった。


「まず、ミケ・ザカリアス分隊長所属の者を発表する」


 彼はリヴァイに次ぐ実力の持ち主。調査兵団の主力部隊だ。主力部隊には、訓練兵団での成績が優秀な者から振り分けられる。一体誰が呼ばれるのか、新兵たちに冷や汗が流れた。


「フィデリオ・コストナー」

「ハッ!」


 名を呼ばれたフィデリオは前へ出た。全員が彼に注目する。
 フィデリオは、訓練兵で二番の成績を収めている。立体機動の腕も一番であるため、文句無しと言っていいだろう。


「フィデリオ、すごいね」

「うん」

「へっ、俺だって負けてねーよ!」

「はいはい」


 相変わらず態度が違うペトラに、エミリは苦笑を浮かべる。
 ミケ班の所属はフィデリオのみのようだ。他に名前の呼ばれた者はいなかったため、次の発表に続いた。


「続いて、ハンジ・ゾエ分隊長所属の者を発表する。エミリ・イェーガー」

「……ハッ!」


 まさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかったエミリは、一秒程遅れて前に出る。勿論、エミリも他の新兵から注目を浴びた。
 巨人関連で色々と噂の耐えないハンジだが、それでも主力部隊の分隊長を務める程、優れた兵士ということは誰もが分かっている。今日からそのハンジが、エミリの上官となるのだ。
 しかし、一つ気になることがある。


(何故あんなにも機嫌が良いのかしら……)


 ハンジはエミリへ大きく手を振り心から歓迎している様子だった。勿論、それは嬉しいが、めちゃくちゃ顔がにやけている。顔が赤くなっているのも気の所為だろうか。
 結局、あまりにもハンジが騒がしかったため、隣に立っていたリヴァイが、彼女の頭を叩くことで大人しくさせていた。


 それぞれの配属班が決まり、新兵達は早速各自班長の下で行動することとなった。
 ちなみに、オルオはゲルガー班、ペトラはナナバ班に配属され、四人ともバラバラの班に所属することとなってしまった。夕飯まで顔を合わせることはないだろう。


「やあ、エミリ! 今日からよろしく頼むよ!」

「こ、こちらこそ! よろしくお願い致します!」


 ギュッと両手を握り、顔を寄せるハンジに圧されエミリは少し顔を引き攣らせる。なんて元気な人なんだ、と違う意味で感心した。これは間違いなく、巨人の話を語られるに違いない。妙な不安が込み上げてくる。


「分隊長! あまり新兵を怖がらせないで下さい!」

「ああ、モブリット! いい所に!」

「人の話聞いてんですか!!」


 ハンジの部下であるモブリットという兵士の話を無視して、自分の話を進めようとするハンジ。二人のやり取りを見てエミリは思った。


(うわ〜……大変そう……)


 他人事だと思って呑気にそんなことを思ったが、もしかしたらこれから自分も彼のようにこうして振り回される時が来るかもしれない。まあ、その時はその時で何とかしよう、と取り敢えず今は適当に流すことにする。


「彼が私の班の副分隊長であるモブリット・バーナーだ」

「えっと、エミリ・イェーガーです! よろしくお願い致します!!」

「こちらこそ、よろしく」

「じゃあ! 早速、実験室に案内するよ!」

「分隊長! そんなことよりも制服と馬が先です!!」

「あ、本当だ〜」


 あはは〜、と声を上げては倉庫に向かって歩き出すハンジ。その後を追うエミリの心境は、ただただ不安で仕方が無かった。


「はい、これがエミリの制服だよ」

「あ、ありがとうございます……!」


 ハンジから制服を受け取ったエミリは、それを広げてまじまじと見る。憧れの自由の翼の紋章。とうとう、これを羽織る日が来た。
 エミリは目をキラキラと輝かせ、そして、それを身にまとう。


「うんうん! 似合ってるよ!」

「ど、どうも……」


 何だか気恥しかったが、それでも嬉しさの方が何倍も大きかった。これを羽織って、壁の外に出られる。憧れの自由の翼を背に、自由のために戦うことができるのだ。


「ハンジ分隊長、私、頑張ります!!」

「あはは、エミリは本当にいつも元気だね〜」

「え?」


 いつもって?
 今日初めて会ったばかりなのに?

 首を傾げるエミリから疑問を感じ取ったハンジは、ニコニコしながら答える。


「いや〜実は昨日の歓迎の宴で、エミリ達四人が騒いでいる所を見ててさ〜元気だなあって」


 あはは、と呑気に笑うハンジの発言に、エミリは固まった。


(み、見られてた……!?)


 上官の前で何たる失態を犯してしまったのだろう。あんなみっともなくガミガミ怒鳴る姿を見られるとは……


「お、お恥ずかしいところを……」

「そんな気に病むことないよ! 元気なのはいいことなんだかさ!!」

「そういう意味では無くてですね……」


 これはよくあることで、熱くなるとすぐに衝動的になるこの自分の短所に長年悩まされ続けている。
 フィデリオとケンカをして冷静になった後、いつも恥ずかしい思いをしてきたというのに、いつになったらこの頭と心は学習するのだろうか。


「さて、次は君の相棒を選びに行こう」

「選ぶ、ですか?」

「そう! 馬と人間にも、相性というものがあるからね。お互いが納得しなくちゃ意味無いでしょ?」

「確かにそうですね……」


 馬と言えど生き物。小さな命。人間が独断で何でも選んでいては、動物の尊厳というものが無くなる。エミリはハンジに連れられ、馬小屋へと足を進めた。


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