Vergiss nicht zu lacheln
□第2話
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あれから、ウォール・マリアの扉は鎧の巨人によって破壊され、人類の活動領域はウォール・ローゼまで後退した。駆けつけた調査兵団により、ウォール・マリアの住民を予想以上に助けることはできたものの、翌年の846年にはウォール・マリアの領土奪還が敢行された。
しかし、人類は領土の三分の一と人口の2割、約25万人を失い、生存者は百数十名のみだった。作戦は失敗。だが、本来の目的は食糧難を改善させるためのものだった。
それは、今から一週間程前の事だった。
「……亡くなった殆どが、失業者やウォール・マリアの住民らしい」
「……」
兵舎の食堂で水を飲みながら、フィデリオは新聞の記事に目を通す。そして、何も答えないエミリに視線を移した。
エミリは、黙々とパンを食べ続けているだけだった。瞳には、光が宿っていない様に見える。
「アルミンのじいさんも……この作戦で戦死したんだってな」
「……」
既に他界した両親に代わって、アルミンの面倒を見ていた彼の祖父には、エミリもエレン達もいつもお世話になっていた。
それだけではない、フィデリオの両親もこの作戦に駆り出され、亡くなったという報せが届いたのは、つい先日のことだった。
「……巨人よ。ぜんぶ、巨人のせいだわ……」
「ああ、そうだな」
エミリはエレンのことを思い出す。事が済んだ後、避難所である食料庫へ赴いた時、エレンはこう言ったのだ。
『駆逐してやる! ヤツらを一匹残らず!!』
10歳とは思えない程、憎しみに満ちた表情で……
エミリは、弟にこんな顔をさせてしまった、こんな事を言わせてしまった、と悲しくなった。そして、何より無力な自分が情けなくて仕方が無い。
「三日前、またエレン達に会いに行ったんだろ?」
「……うん。エレン達、来年、兵士に志願するって」
「そうか……」
元から兵士になりたいと言っていたが、カルラにずっと反対されていた。それでもエレンは、兵士を目指していたのだろうが、今回の壁破壊によってその目的は変わってしまったことだろう。
最初は、壁の外がどういうものなのかを夢見ていたエレン達。けれど、今は、きっと巨人を殺すことしか頭にないに違いない。あの日、あの光景を見てしまったのだから無理もないだろう。
「希望はやっぱり……」
「調査兵団ね」
エレンは、ずっと調査兵団を英雄と讃え憧れていた。壁の外に出て、自由のために戦う調査兵団に入ることは、エレンの大きな目標なのだろう。
エミリは、そんな弟を守るために兵士になることを選んだのだ。エレンが外の世界に興味を持ち出したこと、それがきっかけである。
もしエレンが、本当に調査兵となって壁外に出る時が来たら、その時は自分がエレンを守る。そう心に決めて、カルラを必死に説得して兵士を目指す許可を得たのだ。