□第3話
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やってしまった。
逃げてしまった。
追ってくる様子はない。


でも……



女は足を止め辺りを見渡す。


真っ暗な林の中、不気味な草の音。

何度死を覚悟しても逃れられないこの恐怖。

恐怖を感じるということはやっぱり心の中では生きたいと思っているのだろうか。



恐怖を紛らわすために必死に走り続けた。
すると明かりがともっているのが見えた。


「(村…?)」



集落の中に一軒だけ明かりがついている家があった。
呼吸を整えながらその家の戸を叩く。


こんな夜中に不信に思ったのか、扉を少しだけ開けて外の様子を確認する家主。
私の姿を見て「はっ」と扉を勢い良く開ける。

そこには白髪交じりのおじいさんがいた。


私の顔をまじまじと見るなり、どこかさみしそうな表情のおじいさん。


「こんな夜遅くにどうしたんだい?
誰かに追われているのか?
……とりあえずあがりなさい。」


おじいさんは私の表情を見て悟ってくれたのか、快く迎えてくれた。


「いや、びっくりしたよ。野党に殺された娘が帰ってきたのかと思ってね。」

「…」

「さぁ、余りものだが、芋汁でもお食べなさい。
今、煮詰めなおすからね。」


久しぶりに感じた優しさに涙がポロポロと出てくる。


「……さぞかしひどい目にあったんだろう。
おめぇ家はないのか?」


小さくうなずく。


「そうか……」



囲炉裏につるしてある芋汁の入った鍋がコトコト音を立て始める。
それをおじいさんがゆっくり混ぜながらおじいさんが語る。



「死んだ娘もおめぇと同じくらいの年齢でよ。
娘が帰ってくるような気がして毎晩こうやってこんな時間まで待ってんだ。

…老いぼれの一人暮らしはさみしくての。
行くあてがないなら、遠慮せずにここにいなさい。」



そういっておじいさんは芋汁をお椀にわけ、お箸とともに私に差し出す。



コクッと頷く私におじいさんは
にっこりとほほ笑んでくれた。


あの日から感じることのなかった温かい気持ち。
久しぶりに肩の荷が下りたような安心感。
その晩は久しぶりに布団の中でゆっくりと眠ることができた。
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