alchemists

□いざ行かん、地獄へ
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その時の俺は、二度目に死ぬのはこんなに早いのかと思っていた。
差し出された手はわずかに震えていて、あぁ、本気なのだと思った。
本気で、この人は俺のことを。

「手を、取っちゃくれないか」
「……どうして」

どうして、俺なんですか。

「お前と、俺の二度目の人生を歩いてほしいからだ」
「俺が…あなたの?」
「あぁ、お前が隣にいてほしい。お前がいいんだ」
「……俺で、いいんですか」
「お前でいいんじゃなくて、お前が、いいんだ」

諦めてくれ、と言ったその人は泣きそうな顔で笑った。
あぁ、なんだ。この人だってわかっているのか。自覚して、それでもなお、諦めろと言うのか。震えるほど緊張しているくせに、そんなところは流石と言うべきだろう。いや、緊張している今の姿の方がおかしいのか。
二度目の人生なんて、本来なら歩めるもんじゃない。輪廻転生を捻じ曲げた異分子が集まるその中で、この人は自分を選んだらしい。
一度目は、家族に囲まれ長生きしたと聞いたのだが。
ああ、何も知らないまま、何もかもを忘れたまま、忘れたことさえ忘れたまま、「初めまして」と出会えたならどんなによかっただろうか。

「泣くなよ」
「泣いてないです」

そっと重ねた手は自分と同じぐらいの大きさだが、包まれているような気分になるのは人柄のせいだろうか。
この手で自分は連れて行かれる。一度目と同じところかどうかはこの人次第、いや、きっと同じところには連れて行かれないだろう。なんたってこの人だ。自分一人で行ける場所など、この人には退屈でつまらないと言うはずだ。まぁ、手を離されてしまえば自分はまたあの場所へ行くしかないのだが、そのときは救いの白糸でも探しに行けばいい。

「よろしくな、菊池」
「よろしくお願いします、志賀さん」


重ねた手は強く握りしめられた。

【いざ行かん、地獄へ】

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