alchemists

□生きよ、と言うなら
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朝から武者にたたき起こされて何かと思えば自分の誕生日ときた。たしかに暦を見れば己が生まれた日であり、あの青年の___

「多喜二っ!!」
「は、はい。なんでしょう?」
「…あ、いや……」

いた。何も変わらず、昨日と同じままで、いた。そのことに酷く安堵して足から力が抜け床にへたり込む。へたり込んだ姿はさぞ情けなかっただろうが、俺の目当ての奴は心配そうに駆け寄ってきた。
その目には笑いや嘲りの色は一切なく、ただただ己のことを見つめるばかりで映り込んだ自分の方がよほど弱弱しくなっている。

「大丈夫ですか、直哉さん」
「あぁ…いきなりですまなかったな。ちょっと、そうだな…何でもねぇよ」
「何かあったんですか……もしかして、俺のせいで__」
「違う!」

気付けば叫んでいた。いや、相手の顔を見てようやく相手ではなく自分が叫んでいたことに気付いた。
今日は2月20日。己の生まれた日であり、こいつが死んだ日。
「また」という言葉が叶わなくなった、いつかの日。
俺はまた、こいつを失うのかと___思ってしまったのだ。無意識にも。

「直哉さん、お誕生日おめでとうございます」
「へっ?」
「え、今日…ですよね。直哉さんの誕生日」
「あ、あぁ…そうだ。ありがとな」

ありがとなって、なんだ。なんで俺は礼を言っているのだ。
俺はこいつに祝われるような、祝われてもいいような、そんな者ではないはずなのに。


きっととっさに作った表情はぎこちない笑顔だっただろう。
あぁ、違う。違うのだ。祝われることが嫌なのではない。お前に祝われて嫌なものか。本当に、本当に、お前が祝ってくれることが嬉しいのに。
多喜二、と呼んだ声はひしゃげていた。掠れて聞き取ることも難しかっただろうそれを、相手はするりと拾い上げる。

「直哉さん、俺、直哉さんのことお祝い出来て嬉しいです。前の時には一度しか会えなかった直哉さんとこうしてもう一度会うことが出来て、いろんなことが出来て、本当に嬉しいんです」
「ばっかやろ…これ以上泣かせんなよ」
「すいません、直哉さん」

おめでとうございますと言えて舞い上がってるみたいです。なんて言われれば涙はとめどなく溢れてくる。泣かせんじゃねぇよ、バカ!と腹いせに首元にぐっと腕を回して引き寄せれば、倒れこむように相手の腕が回された。視界は相手のコートと部屋の一部が少し見えているだけ。きっと自分が相手の顔を見ることが出来ないように、相手も自分の顔を見ることはできないだろう。これ以上かっこ悪いところを見せるわけにもいけないので、もうしばらくはこのままにしておこう。まさかこんな日に泣くはめになるとは思っていなかったと比較的落ち着いた頭で笑えば、ふと自分が自室に武者を置いたままこちらに走ってきたことを思いだした。きっと自分の心情を汲んでくれるだろうが、後でなにか言われることは確実だろう。

「多喜二、あとで武者に怒られそうになったら助けてくれよ」
「武者さんにですか?わかりました」
「ばか、わかりましたじゃねーよ」

ドタバタと近づいて来る足音で察してくれたのだろう。ためらいもせず頷く相手の背を一つ大きく叩いて笑った。
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