alchemists

□顔を見れば明らかなのに
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「は?」
「なんで、しょうかこれ…」
「意味わかんねぇな。何だこの部屋」



【あなた方は「どちらかが相手を拘束しないといけない」部屋に閉じ込められました。】



「で、拘束しろってか。俺が多喜二をするか、その逆か、どっちでもいいのか?」
「直哉さん…」
「拘束すればいいだけか?拘束って適当でいいんだろうな?」

はぁ、と大きな溜息をついた直哉さんはおもむろに首に巻いていたストールを外した。どうするのだろうかと見守っていると、「ほら、これでやれ」とストールをこちらに差し出してくる。

「え!?直哉さんが俺を縛るんじゃないんですか」
「縛られたいのか?そういう趣味だったのかお前」
「違いますけど…俺が縛るよりも直哉さんが俺を縛る方が自然かと思ったんです」
「俺はお前を縛りたくない。だから、お前がやれ」
「はぁ……」

「両手まとめて巻いときゃいいだろ」と直哉さんは投げやりに言う。面倒ごとに巻き込まれてイラついているのだろう。ここでまごついても余計に苛立たせるだけだと、ストールを受け取り、相手の手を取る。
手首を合わせるように差し出され、ぐるぐるとまとめてストールを巻き付ける。
まさかこんなことを自分がするだなんて思ってもいなかったと思っているうちに数トールの両端を結び、簡易的な拘束が出来上がった。
それと同時に扉の方からガチャリと音が聞こえてくる。どうやら鍵が開いたらしい。あれだけ蹴ったりしても開かなかった扉がああも簡単に開いたということはやはり何か細工がしてあったのだろう。この件は司書に報告して、対策を取ってもらわなければ。犯人がわかればこの手で仕返しに行けるし、直哉さんも一発殴れば多少はすっきりするはずだ。
結び目を解き、巻き付けていた物を外す。痛くないように気を付けていたが、大丈夫だっただろうか。

「直哉さん、腕は大丈夫ですか」
「ん?あぁ、大丈夫だぜ。さっさと出るか」
「はい」

歩き出した直哉さんの後に続いて部屋を出れば、出てきたはずの部屋は忽然と消え、館内の廊下に出てきていた。見知らぬところに放り出されなくてよかったと思うが、直哉さんはずんずんと歩きだしていたので慌てて追いかけた。
その方向は執務室がある方角だ。自分と同じように直哉さんも考えていたのだと気付き、不謹慎かもしれないが少しだけ嬉しくなる。

それにしても結局何をしたかったのかわからない部屋だった、な。


*:*:*

「直哉さん、怒ってましたか」
「は?怒ってねぇけど…俺なんかしたか?」
「いえ、俺の気のせいみたいです。すいません」

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