alchemists

□三人で食べる用
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【カップケーキ】

執務室に足早にかけて来る足音は硬く、革製のブーツが鳴らすものだとすぐにわかる。変え軽やかとはいえ、子供よりも重たいそれはあの方だろうか。あの方はいくら注意されてもせいぜい小走りになるのが精一杯だろう。今日はどうしたのだろうかと扉の先を見つめていれば、やがて扉をノックする音が響いた。

「司書さん!司書さん!」
「何でしょう、武者さん」
「司書さんに、これ、差し入れです!志賀が作ったので味も保証付きですよ!」

ニコニコと笑う相手に怒る気力も失せる。むしろつられて頬も緩み、告げられた内容に破願してしまった。
相手は大きめの平皿を持っており、その上にはカップケーキがいくつか乗せられている。相手は応接用の机へとそれを持っていった。温かいうちにいただきましょうと促す声に腰を上げ、きっと館内のあちらこちらで漂っているであろう甘い匂いに近づいた。

「かっぷけぇき、というものですよ!卵味のものとちょこが入っているものと二種類あるそうです」
「……志賀先生は器用ですねぇ。本当に美味しそう」

後でまたお礼を言わなくては。そう零していると「志賀なら後からお茶持ってきますよ」と先生が言う。普段はこうして二人で食べることが多いのに、と驚けば、そうなんだよねぇ…と一つ目を食べながらの相槌が返ってきた。二人分にしても多い理由はそれか。
それにしても今日は一緒に食べるだなんて本当に珍しい。感想を聞きに来ることはあっても一緒に食べるのはこの先生ばかりだとお思っていたのだが、何か信条の変化でもあったのだろうか。
自らも皿の上の一つ目に手を伸ばす。薄い黄色の方を手に取って食べ始めると、やがてまたノックの音がした。
向かいで座る先生と目が合う。二人して口いっぱいにカップケーキを食べていたものだから、なんだかおかしくなって慌てて口を押えた。あぁ、お茶がない。まずいぞ。口をもごもごさせなんとか飲み込む。外で待つもう一人の先生を迎え入れることが出来たのは、これが最後だぞとばかりに叩かれた三度目の ノックの時だった。

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