alchemists

□悪戯と沈黙
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イベント「万聖節ノ狂宴」の新美先生の衣装ネタです。
また、貝殻忌にあわせて書いてるので、苦手な方はお戻りください。突然始まって突然終わります。


*:*:*



この人を見かけたときに、なぜか、なぜだか、とてもゾッとしたものを感じた。
どこかに向かうその姿に、一瞬見えた横顔に、嫌な予感を憶えた。
慌てて呼び止めようとしたのに、喉に空気が詰まって呼べなかった。
伸ばした手は届くことなく、知られることもなかった。
そうだった、はずだ。だから、この状況が起こっているはずなのに。

自分は何と言ったのだったか。何がトリガーとなったのだろうか。思い出そうとしてもたわいない話をとりとめなく話していたからわからない。
しかし、その人は自分を前にして言った。いつもと変わらぬ笑顔で、悪戯っぽく。

「アナタだって、僕に黙っていることあるでしょう?」

そう言ってにんまりと目を細めた相手に、自分は返す言葉を持っていない。相手もそれ以上相手も追及する気がないのかにこにこと笑うばかりで、何も言わない。
二人の間に沈黙が起きるなんて初めてのことだった。できることなら、沈黙が起きてしまうことを知りたくなかった。
だが、しかし。自分は言えない。言えるわけがないだろう。

その服が、喪服のように見えました。だなんて。

死人に口なしとでも言いたいのだろうか。貝のようにぴったりと閉じた唇は震えることがない。あぁ、嫌だ。こんなこと思いたくない。この人を、死人だなんて。
ここで、こうして、共に過ごしているのに。自分がここで過ごすようになってから、今までずっと、毎日毎日会っているのに。

穏やかとは程遠い沈黙。背中は冷や汗で濡れている。相手から見て自分はいつも通りに笑えているのだろうか。普段と何一つ変わらぬ、喰えないと評された笑みを浮かべているだろうか。引き攣りそうになる口元を、寄りそうになる眉を、堪えるので精一杯だ。


「白状、いたしますから……」

あの時、自分はどうしようもなく怖くなったのだ。
消えてしまうのかと、もう二度と会えなくなってしまうのかと、そう思ったから。
たまらなく怖くなった。“江戸川乱歩”ともあろう者が、“怖い”などと。

「笑わないでくださいね、南吉さん」
「笑わないよ、乱歩さん」
「奇妙なことを思ってすいません、南吉さん」
「意地悪してごめんね、乱歩さん」

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