alchemists

□早朝、庭にて。
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「こんにちは、先生」

振り返れば、そこには司書がいた。僕らを転生させたその人は僕らの遺した文学を守るために戦っているのだという。実際に戦っているのは転生した自分たちなのだけれど、この人はこの人でやることがあるらしい。

その証拠に、あぁ、なんでそんなに抱えてんの。

まだ多くの文豪が眠っている早朝にもかかわらず、その人は書類と思われる山を抱えている。自分だっていつもだったらまだ眠っている時間帯だ。まさか、いつもこうなのだろうか。

「先生?まだ寝ぼけてるの?」
「いや…そうだな、君のそれを見たら二度寝も悪くない気がしてきたよ」
「先生、今日非番でしょ。いいんじゃないんですか」

てっきり手伝いを強請られるかと思っていたのに。
あっさりといいんじゃないんですかといったその人はそれじゃぁ、とあっさり離れようとする。

「君、今日の助手は?」
「今日ですか?あー…啄木先生ですかねぇ」

挙げられた名前の主は昨晩遅くまで談話室にいたはずだ。それに、ずいぶんと呑んでいたように見えたが。
あの分だとまだ起きているはずがないだろう、まさか一人でやる気じゃないだろうな。
この人ならやりかねないと視線を戻すと、あちらも何か感づいたようで。

「先生はゆっくり休んでくださいね!非番なんですから!」
「あ、おいっ!」

書類の山を抱えたままパタパタと走って行ってしまう。捕まえようと伸ばした手は相手の髪をかすめただけで、空を切ってしまった。

本当は散歩して、それからゆっくり読書をしようと思っていたのに。まさかこんなふうに予定が狂うなんて思わなかった。
それもこれも全部、ここで出会ってしまったが故。


「ったく……しかたないな」

誰に言うでもなく呟く。これを誰かに聞かれたら、それこそ僕はずっと揶揄われてしまうだろう。
だけど、今は誰もいないから。
起きているのは、それこそ、あの人と僕だけ。

ならば。
本来の役目の者が来るまでは。



end

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