好きだからこそ

□12.幸せも苦しみも全部抱えて生きていく。
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幸せな、懐かしい夢を見た。


「こんな安っぽいもんで悪い。でも、いつか本物買ってやるからなまえのここ、予約してもいいか?」


お祭りの射的で銀さんが取ってくれたビーズで出来た玩具の指輪を私の左手の薬指につけて、目の前で穏やかに微笑む大好きな、生涯で唯一の愛している人。


「馬鹿だなぁ。断れるわけないでしょう?」


少し涙ぐんで笑えば、「本当、お前は泣き虫だな」って言って私の涙をその温かな指先で拭ってくれる。


「だって、銀さんと出会ってからだよ?こんなに涙腺弱くなったの」


そう。貴方が私を救ってくれたの。いじめられて挫けそうになった私を、貴方が救ってくれたの。


泣きそうになる程とても優しくて、温かな夢だった。


正直な話ついさっき気付いた事があって、依頼をしてきた美琴さん。彼女がかつて同じバイト先の仲間だったっていう事を思い出した。


ただお互いに年をとったからなのか、はたまたただ単に記憶から抜け落ちていたからなのかは分からないけれど、すぐに思い出せずにいた。


あの子には本当に酷い事をされた。


本当は気がついてはいた。あの日、賭けがあった事。その賭けを唆したのも彼女だって言う事に。


だってA君はそんな人の心を弄ぶ事ができない人なんだもん。そんな人だったから私は惹かれたんだ。


でも実は今ではいい思い出というか、彼女に感謝しなければいけないと思っている。


それは、銀さんと出会えたから。


こんなにも愛おしくて、恋焦がれる人と出会えたのだから。


終点ですよ、と駅員さんに起こされて私は慌てて車両を飛び出す。


ひんやりとした空気が頬を刺す。


目の前には山の中にある小さな集落。



此処がこれから私が生きて行く村。


私は掌をお腹に当てて、幸せも苦しみも全部抱えてこの子と二人で生きていくと決意した。


To be continued...

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