好きだからこそ
□9(.5).息が止まった。
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美琴に連れて来られたのはかぶき町からはかなり離れた繁華街で、いわゆるセレブ御用達という店が軒を連ねると呼ばれるような場所だった。
今は一件の茶屋で飯食ってから外を二人並んで歩いている。
いや、しかしこりゃあ一雨きそうだな⋯⋯。
「ヘェ、こんなとこもあんだな⋯⋯」
「あら、銀時こういう所来ないの?」
「まァ、自営業で何でも屋だと依頼料とかマチマチだからよ」
だから!近ェんだっつの!!!
こんなとこ、なまえに見られて「浮気する銀ちゃんなんて大嫌い!」なんて言われてみろ!?銀さんの銀さんもう元気にならなくなっちゃうからね!?
「また、あの女の子と考えてるの?」
「いや。違ェよ」
女は含み笑いをこぼしたと思ったらいきなり俺の腕を引っ張って腕を絡めて歩き出した。
「っぶねェな!」
「私たち恋人なんだから、いいじゃない。減るものじゃないし!」
銀さんの大切なものが減るんですけど!!とは流石に言えなかった。なまえの身の安全が一番だし。
こいつの後ろにやばいのが絡んでるのは分かっている。生憎、万事屋に住み込みで仕事しているとは言え、なまえは身の安全を護る術を持ち合わせてはいない。
今まで傷付けるわけにはいかないからと危険な依頼は俺と新八、神楽、定春の三人と一匹で依頼をこなしてきたからだ。
女が服屋を見ている時になまえから誕生日の時にもらった財布がないことと、外は大雨が降っていることに気がつく。
「っと、悪ィ。ちっとさっきの茶屋で財布忘れてきたみたいだわ。取ってくるわ」
「分かったわ。⋯⋯逃げたりしてみなさい?分かってるわね?」
女は俺に念を押すように言うと、俺は「わーってるよ」と答える。
俺は来た道を急ぐ。
ちらっと視線を反対側に向けると結構デカ目のスーパーがあった。
こんなところにスーパーなんてあったんだなァと思った時、そのスーパーの前に1台のタクシーが停る。
そのタクシーに乗り込む一組の男女。
「⋯⋯な、んで⋯⋯」
なんて情けない声が口をついて出る。
女の肩を抱いて乗車を促しているのはいけ好かねェあの真選組の副長の土方と。
泣き腫らしたような表情で、雨に全身を濡らしているのは⋯⋯俺の恋人のなまえで⋯⋯。
息が止まったかと思った。
胸の奥の大事な何かを掴まれたような息苦しさ。
「なん、で⋯⋯だよ⋯⋯。⋯⋯⋯ッ⋯⋯なまえ⋯⋯ッ⋯⋯!」
俺は声をかけることも出来ずに、その走り去ってしまったタクシーに伸ばしかけた手はゆっくりと下ろされる。
「あら、あの子もやることやってるのね」
いつの間にか現れた女は傘をさして、ふふっと笑う。
「⋯⋯ねェ、このままホテルでも行かない?」
「⋯⋯あァ」
これは女の策略だと分かっていても。
今の俺はどうするべきか分からなくなっちまっていた。
あの時あいつらに声を掛けていたら、何か変わっていたはずだった。
あんな終わり方なんて来なかったはずだった。
なァ、なまえ。
俺ァ、何を信じたらいい?
でも、俺ァ最悪な男だよ。
お前という何よりも大切で、何よりも護りたいと思う女を裏切っちまった。
その日、俺はさっきの光景を忘れたくて精力増強剤を飲んででもこの美琴という女を抱いた。
でも、消えてくれねェんだ。
さっきのなまえの表情と、俺に向けられるあのキスしちまいたくなるくらいの笑顔と林檎のように真っ赤になった顔。
怒った顔。
いつも怪我ばかりして帰ってくる俺らに向けられる今にも泣きそうな顔。
全て護ってやりたかった。
この手で、この⋯⋯腕で。
裏切っちまった俺の汚れた手ではもうお前を護る権利なんて無ェ。
抱いている時、この女が悪い顔して嗤っているなんて罪悪感に苛まれている俺には気付かなかった。
to be continued...
嗤うがわからない人向け。
※嗤う(わら)う=あざける。嘲笑うという意味。