好きだからこそ

□8.さようならも言えずに
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溢れる涙を拭うことすらもできないまま私は電車に乗り込んで、新天地を目指していた。



結局、さようならも言えなかった⋯⋯。


多分、いや絶対に銀さんに会ってしまったら酷い言葉で彼を傷つけてしまっていたから。


涙を袖で拭うと車窓の外を見てみる。


江戸の町が豆粒ほどに見える。


本当に出てきてしまった。
銀さんは⋯⋯私が居なくなったら心配してくれるのだろうか⋯⋯。


そんな淡い希望を持っている時点で、未練タラタラってことか⋯⋯。


自分の女々しさに自虐的に笑うと銀さんと付き合い始めて初めて貰ったプレゼントである夏祭りの射的の景品のビーズでできた指輪を懐から取り出す。


おもちゃの指輪だけど私はこの指輪が大切で、宝物。


どうしても捨てられない。
一緒に写った写真が無くても、これだけは⋯⋯。これは銀さんがくれた最後の思い出の品だから⋯⋯。



いや⋯⋯。違う⋯⋯。



銀さんが最後にくれた、本当に最後の宝物⋯⋯。



私は涙と鼻水を垂れ流しながら、お腹に手を当てる。



「あなたが⋯⋯最後の銀さんからのプレゼントだもんね⋯⋯」



私は銀さんのことを忘れずに、忘れないで生きて行こう。



私が銀さんへの想いを抱えながら、この子と一緒に二人で生きていこうと決めた瞬間だった。





to be continued...

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