好きだからこそ
□6(.5).掴めなかった腕
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公園で遊んでいたけど、何だか嫌な予感がしていた。
定春もやけに帰りたそうにしていて、胸にはもやもやが残っている。
「定春!帰るヨ!」
「アンっ!」
定春に跨って私は万事屋へ駆け出す。
今日のなまえの姉御は様子がおかしかった。
いつも通りだったんだけど、笑顔がどこか寂しそうだったから。
銀ちゃんが依頼で帰ってこないのか理由だと思ったけど、今までああいう表情をする姉御を見たことがなかった。
今にも消えてしまいそうな、そんな笑顔。
万事屋の近くまで来ると定春から降りて、一気に階段を駆け上がって玄関を潜る。
電気がついていないけど、ハンバーグのいい匂いがして姉御がいることを確認して安心したはずだった。
違和感を感じて周りを見渡す。
銀ちゃんと姉御の部屋を見て、それは確信に変わる。
姉御の物が、何一つとしてない。
そこに居間にラップがかかったハンバーグと分厚い封筒と小さい封筒を持った姉御が来た。
「⋯⋯姉御?」
私の声に驚いたような表情の姉御。
何で、どうして⋯⋯。
「姉御、何で⋯⋯姉御の荷物ないアルか?」
姉御は視線を泳がせて焦る。
「姉御!答えてヨ!」
私がそう言うと、姉御は今にも泣きそうな顔色も悪く、弱った顔で。
「⋯⋯ごめんね、神楽ちゃん。
私、もう疲れちゃった⋯⋯」
今にも消えてしまいそうな、そんな声でそう言葉を紡ぐ。
私はヒュッ、と息が止まるような錯覚に襲われ、息をするのを忘れて見開いた目からは涙が溢れ出す。
「ごめんね」
そう言って姉御は私の横を荷物を持って通り過ぎた。
あんな、本当に泣きそうな⋯⋯。
今にも死んじゃいそうな顔であんなこと言われたら、ヤダなんて、行かないで、なんて言えないヨ⋯⋯。
私はただただ定春にしがみついて泣くことしかできなかった。
今でも思う。
あの腕を無理矢理にでも掴んでおけばよかったと⋯⋯。
to be continued...