好きだからこそ
□5.降り止まない雨
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雨は止む事を知らず、しとしとと降り続き私の衣服は水分を含んですっかりと重くなってしまった。
そして相も変わらず涙も止まらないけれど、雨か涙か分からないから思う存分泣ける。
やっぱり銀さんにとって私は邪魔な存在だったというわけで。
だからと言って私はこの子を堕ろしたいのかと問われればそうでもなくて。
やっぱり何があったとしてもどうしても銀さんが好きだから、それだけはできなかった。
「⋯⋯なまえ、か?」
雨の喧騒の中、耳に届いたのは待ち人よりも少し低い声。
視線を動かすとV字の前髪に、鋭いその目。私服のところを見ると非番であろう土方さんが立っていた。
「⋯⋯土方さん」
「テメェ何してやがる!傘もささねェでよ!」
土方さんは慌てて上着を脱ぐと私に掛けてくれる。
「⋯⋯へへ、ちょっと気分悪くなっちゃって⋯⋯」
「へへ、じゃねェだろ!」
両頬を手で包んで目を合わせてくる土方さんの瞳は本気で怒っていて、本気で心配している目だった。
「⋯⋯⋯ここじゃあ、冷える。送って行ってやるから、ちょっと待ってろ」
そう言って土方さんは携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。
話を聞く限りおそらくタクシーを呼んでいるんだろう。
「悪ィ。タクシーちょっと時間かかるってよ。寒いだろうが少し我慢してくれ 」
「⋯⋯すみません」
「謝んな。俺が好きで勝手にやったことだ」
すっかりと濡れてしまった髪の毛を土方さんは優しく撫でてくれる。
多分だけど土方さんは泣いていることに気付いているのだろう。
そして、私が銀さんのことで泣いているということも。
「お、来たな」
「ひ、じかたさん⋯⋯」
「ん?」
「ありがとう、ございます⋯⋯」
「気にすんな」
くしゃりと髪の毛を撫でてくれた土方さんに促されながらタクシーに二人で乗り込む。
そんな姿をとても傷ついた表情で見つめる一つの影の存在に私も土方さんも気付いてはいなかった。
to be continued...